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 無駄なもの、ややこしいものをそぎ落としていくことを「ノイズを取り除く」と表現しているのを聞いて、「あぁ、分かるなぁ」と、とても共感した。私も文章を書く時には、難しい表現は使わず、なるべく文章は短く区切り、リズムを意識する。文章にはあえて無駄なものをつけることもあるという違いはあるが、駒の配置も、文章のリズムも「なんか気持ち悪いから変えてみよう」と思う感覚は似たようなものかもしれない。

「詰将棋作家です!」と、まだ自信を持って言えるレベルに達していない私が、詰将棋界の最高峰の賞である看寿賞を2回受賞されている浦野八段の話に対し、「分かる!」と言うのは大変おこがましいのだが、それでも共感する部分は多かったし、とても勉強になる時間だった。

ハンドブックシリーズが将棋ファンに愛されている理由

 さまざまな地方の将棋教室に直接足を運び、将棋を指し、ハンドブックの認知度を広めると同時に、そこで聞いた声から新たにハンドブックを改良する。未だにハンドブックは進化し続けているのだという話には、特に感銘を受けた。

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 本を作り、完成し、販売し、その次を作るまで。より良いものを作るための循環が出来ている。思わず「普通はそこまで出来ないですよ」と言ってしまうと、「でもまぁ、好きやからね」と爽やかに返された。ハンドブックシリーズがここまで将棋ファンに愛されているのは、単純に良い本だからだというだけでなく、やはりそれだけの理由があるのだ。

 先程ハンドブックシリーズにはこだわりが詰まっていると書いたが、愛情も詰まりに詰まっている。「好きやからね」の一言に20年の歴史が詰まっているように感じた。

歴代ハンドブックシリーズと新刊の『棋士が出題! まいにち詰将棋ベストセレクション』(マイナビ出版)

多くの人の「好き」が集まる場所になったら

 2時間あったトークショーも楽しくてあっという間に終わり、ゾロゾロと隣のギャラリーへと移動した。どうやら壁のボードに名前を書くのが恒例らしい。「どこに書こうか~」と話しながら眺めていると、藤井聡太八冠の左横が空いている。果たして誰がここに自分の名前を書けるだろうか。当然、無難そうなところに書いた。

 ギャラリーの中には物販の他に、棋士の等身大パネルもあり、一緒に写真撮影が出来る。森内俊之九段のパネルの大きさに思わず「おぉ!」と声が出た。本当に色々な楽しみ方が増えてきているんだなぁと、しみじみ思う。

 家に帰って、あの壁のボードの千田翔太七段のサインがおもしろいと聞き、しばらく探し、見つけて爆笑した。このコラムを読んでいる方にもぜひ探していただきたい。

 将棋界は個性が豊かだ。駒テラス西参道が、多くの人の「好き」が集まる場所になったら嬉しい。

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