そりゃあそうや。地元の市民は当然として、全国のマニアもこれが74式戦車と触れ合える最後のチャンスと日本全国から馳せ参じてきたのである。そしてこの74式戦車最後の日を祝わんがごとく、天気予報に反し青空が広がりはじめたのであった。
かくして満を持して始まった訓練展示には4両の74式戦車が登場、砲塔側面に描かれた第10戦車大隊のエンブレムでもあり、地元名古屋城の天守閣にそびえる金の鯱も実に誇らしげに、戦車にとっては猫の額のようなグラウンドを社交ダンス競技会のごとく一糸乱れぬスラローム行進を披露したかと思うと、観客席に向かい車体前部と主砲砲身を沈め車体後部を上げるという象さんの「お辞儀」のポーズで観客の拍手喝采を浴びていたのである。
さらに隣接する10階建ての団地やすぐ近くに病院まであるのにもかかわらず、74式戦車の105mm主砲や「FH-70」155mm榴弾砲を空砲とはいえ惜しげもなくぶっ放しても、「戦争のための訓練を許さないぞう…」などとわめく「なんでもハンタイ派」が現れんぐらい、この地では自衛隊に対する地域感情は良好なのであろう。それどころか、そんな砲声、銃声の轟音を耳に、巨大に膨れ上がった発砲炎を目にしても、隣接する団地の奥様方はまるで日常のように洗濯ものをとりこんでいるのである。
午後から始まった74式戦車試乗では朝早くから行列に並んでゲットしたプラチナ・チケットを握りしめた約700名の老若男女が歓声を上げているのである。
大人も童心に帰り大喜び
74式戦車砲塔後部に取り付けられた特設ゴンドラには親子連れが鈴なり、戦車の履帯が巻き上げる砂塵を浴びながらも、右手にスマホもう片手は振り落とされぬようゴンドラをつかみながら大人も童心に帰り大喜びなのである。不肖・宮嶋もいてもたってもおられず、師団司令部広報班のご配慮で行列が途切れた合間を縫って試乗させていただいた。最高速度58キロまではだしていただけんかったが、最新の10式戦車がクラウンなどと同じ無段階変速機に対し、74式戦車はセミオートマチック・トランスミッション、発進もシフトチェンジ時もガツンとくるショックが全身を襲う。
さらに鋼鉄の履帯が地面を掻く強烈な振動、そしてこの威容、しかしこれらこそが戦車のみが持つ存在感であろう。最新のMCVとて戦車が持つこの威圧感は及ばない。まさに味方にするとこれほど頼もしい、敵に回すとこれほどおとろしい存在はないのである。