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現在同性愛者たちが完全に受け入れられているかといえば、そうではない

――自分と違う人たちを差別し不当に扱おうとする人間の愚かさは、現在の社会にもたしかに通じています。ロ・カーショさん自身は、この事件が今のわたしたちに伝えるメッセージについてどのようにお考えですか?

ルイジ・ロ・カーショ 映画の舞台となった1960年代に比べれば、今は同性愛者に対する偏見や差別感情はだいぶ弱まってきたと思います。あの時代には、教唆罪という名を借りて実際には男性の同性愛が罪として扱われたわけですが、今のイタリアではそのような恥ずべき法律はなくなっています。だからといって、現在同性愛者たちが完全に受け入れられているかといえば、決してそうではない。

 今現在も、毎朝目が覚めるたびに、親に自分の性的指向を告白しようか、言ったら拒否されるのではないかと恐れている若者や子供たちが大勢いるのです。身近な人から拒絶され差別されるのは何より辛いことです。私が願うのは、この映画によってこうした若者たちをめぐる状況が少しでも改善されること。彼らに「大丈夫、君たちは一人じゃないんだよ」と伝えられる映画になってほしい、そして彼らの親の世代には、同性愛とは決して反自然的なものではないとわかってほしいのです。

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©Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)

――この映画は、アルドとエットレに降りかかった悲劇であると同時に、二人の愛の話であり、またアルドと記者のエンニオとの深い友情の話でもあり、根底には美しい何かが示されているように感じました。

ルイジ・ロ・カーショ この映画は詩から始まり詩で終わります。そして物語が進むうち、その詩がある人へと贈られたものだとわかってくる。彼らの身にこの酷い出来事が起こったのは事実ですが、それが映画になることで時代や国を超えて多数の人に伝えられ、そこから何か美しいものが生まれてくる。詩でも映画でも、芸術にはそういう素晴らしい力があるのです。

INFORMATION

「蟻の王」

©Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)

11月10日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次

配給:ザジフィルムズ