規則から自由になったレイは、日々したいと思うことをして過ごすようになった。
ほとんど毎日のように、別のホストクラブへと足を運んだ。ホストクラブでは、初めて入店した場合は「初回」と言って、料金がほとんどかからない。せいぜい数千円か無料、中には現金をくれる店まである。レイは、多い時には1日で数軒はしごをし、初回で40軒近いホストクラブへ行った。
安く遊びたかったわけではない。「本当にいいホストさんを探していた。何の見返りも求めず、愛をくれるような人を」。だから、初回で訪ねた店でこれはと思うホストに出会うと、その後、何度か指名して行ってみた。「でも何か違ったんですよ」
ホストクラブに通うために売春をした。区役所通りにいつもいる外国人から紹介されたソープランドで働き、茨城や埼玉、福島の風俗店へ出稼ぎにも行った。10日間行けば50万円は手にできた。大久保公園周辺での路上売春は、トー横広場で誰かから「あそこに立つと稼げるらしいよ」と聞いて知った。歌舞伎町に来て1週間後には立ち始めた。風俗店と路上の両方で収入を得た。すべてホストクラブに注ぎ込んだ。
「ホスクラ行って寝て、公園で立ってソープ行って。その繰り返し。全然寝てない。でもホスクラにいても、気になるホストがいなければ1人でずっとスマホ見てた。実はそれが一番休まる時間だった」
寝泊まりはずっとネットカフェだった。口にするのは菓子か酒。タバコは1日に2箱吸った。
ホストめぐりを始めて3カ月目、あるホストと出会う。年上の34歳だった。押しが強くなく、寄り添うように接してくれた。「大人の振る舞い」に惚れた。そして、また精神のバランスを崩した。
「出会えたのはよかったんだけど、今度は他の客に嫉妬したり、もっと店に通って支えてあげなきゃと思ったりして。お金がないのもストレスでした。彼も「好き」とか「一緒になれたらいい」とか言ってくれるし、私もずっと会いたい会いたいとばかり考えて。頭の中はそれだけでした」
向精神薬も睡眠薬も、規定の量より多く飲むようになっていった。
「病気をきちんと治したい」
レスキュー・ハブの女性ボランティアから、「困っていることあったら、言ってね」と声をかけられたのは、そんな時だった。精神のバランスを崩していることはうっすらと自覚していたし、ホストクラブの売り掛けもあった。困っていた。
歌舞伎町に来るずっと前からだが、レイは時々、記憶をなくす。気づくと知らない場所にいて、どうやってそこに来たのか全く覚えていない。美容室に行った覚えもないのに、髪が短くなり色も変わっている。酒も飲んでいないのに、そんなことが時々あった。
「別人格がいるんです」。ラインに残る友人とのやり取りから、自分が男性として振る舞っていたことに後で気づく。違う名前を名乗り、彼氏としてメッセージを送っていた。そのことは全く覚えていない。友人は、レイの別人格だと知ったうえで、やり取りを続けてくれているという。