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 レイは別人格を受け入れていたが、精神的な不安定さと記憶喪失は精神疾患によるもので、治療した方がいいと思っていた。体を売ること自体は慣れきっていたが、昼職に就きたかった。

 坂本さんは、レイから相談を受ける少し前、新宿区から受給した50万円の補助金で、1Kのマンションの一室を借りてシェルターを開設していた。そこにレイを迎え入れることにした。

 自分だけの空間で寝泊まりできるようになり、レイの精神状態は少しずつ落ち着いた。手荷物一つで歌舞伎町に来た時から持っていたクマのぬいぐるみ「ナナミ」をベッドに置いて横になると、心からホッとしたという。「楽しいと思ってやってたけど、やっぱり気が張っていたのかもしれないです。酒やタバコに逃げていたのかも」。トー横広場にいた時、何でも言い合える友人はいなかった。「今は坂本さんに何でも言えるんです。それもすごく大きいかも」

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 シェルターに入って数カ月がたち、レイは坂本さんに「病気をきちんと治したいです」と言った。

「歌舞伎町に来て、『人から見られて、憧れられる仕事に就きたい』って思うようになったんですよ。接客業かな。キャバクラでもいいけど、アクセサリーとかコスメ関係とか。そのためには自分自身を磨かなきゃって思ったし、まず病気を治してからかなって」

写真はイメージ ©️AFLO

いつかは支援する側に

 歌舞伎町に来て最初の冬を越し、東京に春一番が吹いた頃、レイはホストクラブには行かなくなっていた。タバコは相変わらず手放せなかったし、飲みにも行った。でも、路上に立つのはやめていた。

「今年、20歳になるんです。誕生日が来たら、これまでいた施設を回りたいんですよね。養護施設と一時保護所。あと自立支援施設も。職員さんにお礼を言いたい。いた時の私はいい子じゃなかったけど、今はお世話になったと思ってるんで」

 前向きな話を次々に口にした。一番最後の自立支援施設にいた16歳の時、精神障害があると認定を受け、障害者手帳を取得していた。等級は3段階の真ん中だった。「当時は自分に障害があるって認めたくなくて迷ったけど、その時に認めていたから、今になって治そうと思える」と言った。何の見返りも求めず、気にかけてくれる坂本さんは、レイの目標にもなった。

「今は無理だけど、いつか自分も坂本さんみたいに、誰かを支援する側になりたい。私みたいな精神障害があって夜職やってた子でも、頑張ればできるんだってことを発信もしたいと思うようになったんです」

 レイは坂本さんや私にも丁寧語を交えて話す。相談室に来る子には、まずいない。人と話をするときは礼儀正しく、気も使う。渡り歩いた施設で身についたものかもしれない。坂本さんは、彼女が生活保護を受けている自治体の担当者に連絡し、治療が受けられる道を探った。担当者が、レイを受け入れる病院を探すことになった。

「彼女はきちんと人と接することができるし、自分の状況も自分なりに分かっているようですからね。まだ19歳ですけど、(売春を)やめて自分で生きていけると思います。だから歌舞伎町にズルズルいないで、早く病院も決まるといいんですけど」と坂本さんは言った。