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「水でも食べられないことはないけども非常に不味い」カップ麺のお湯はどこで手に入れるのか…日本人が知らない「ホームレスの食事情」

『ルポ路上生活』より #1

2023/11/19

genre : ライフ, 社会

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 防寒着は毎週やっている衣服の配給でもらえる。寝袋や毛布は基本的にキリスト教会の人たちがシーズンになると配り歩いてくれる。さらに黒綿棒はこう話す。

「前回の冬に一般人が善意でヨガマットを僕らに配って歩いていたのだけど、誰も受け取らなかった。寝袋と毛布があれば必要ないからね。荷物が増えるのも避けたいところだし」

 被災地に千羽鶴を送るのは自己満足でしかないという議論が行われることがあるが、若干近い現象がホームレスの場でも起きている。あくまで、食べ物やヨガマットを配ってくれるのは善意によるもので、自己満足ではないかもしれない。ただ、現場がどういった状況になっているかはわかっていないのかもしれない。

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最も涼しいのは「都庁前駅A4出口前」

「夏は対策のしようがないと言ったけども、ひとつだけいい場所を教えてあげる」

 黒綿棒が教えてくれたのは、都庁の周りの歩道にいくつか設置されている排気口だった。しかし、全部の排気口から冷気が出ているわけではない。中には暖気が出ている場所もある。最も涼しいのは都庁前駅A4出口前の排気口で、次に涼しいのはA5出口近く、新宿中央公園沿いだという。

「ただ、あまり頻繁に涼みに行くと通行人に哀れみの目で見られるからほどほどにしてほしい。でもたまに涼んでいても誰も見てこないときもあって、逆にドキッとすることもある」

「意外と誰も僕らのことをジロジロ見たりしないですよね」

「そうなんだよね。ジロジロ見られるのも嫌だけど、まったく見られないのもそれはそれで悲しいというか……。周りの人々にとって、僕は透明人間なのかと思うときがある」

 ベースに戻り、昨日もらったクリシュナのカレーを食べる。黒綿棒が「それ、まだいけるの?」と心配そうな目で見ているが、まったく問題ない。

 しかし食べ終わる頃に、具の一部だと思っていた黒い粒々が蟻だということに気が付いた。たぶん、蟻を200匹くらいは食べてしまったように思う。「アミノ酸が摂れて逆にいいじゃないか」と考えている自分にハッとした。だいぶホームレス生活にも馴染んできたようである。蟻にアミノ酸が含まれているかは知らないが。

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