「コンビニはもはや僕らの顔を覚えているからとても行きづらい。水でも食べられないことはないけども非常に不味い」
都内のホームレスはどこでカップ麺のお湯を手に入れるのか? その食事情を、取材のために2021年7月23日~9月23日までの約2ヶ月間をホームレスとして過ごしたライターの國友公司氏の新刊『ルポ路上生活』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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ホームレス生活4日目の朝
7月26日。
早朝、爆竹の音で跳ね起きるも昨日の疲れがまだ残っているせいかまだまだ眠れそうである。熱帯夜と朝の陽ざしのせいで首筋は練乳でも垂らされたかのようにベットリしているが、二度寝するほか選択肢はない。
9時頃目を覚ますと、真横を無数の革靴やパンプスが行き来している。恐ろしいくらいの通勤ラッシュだ。しかし、私たちに視線を送る人はほとんどおらず、風景の一部分になっているようで人の目は意外にも気にならない。ただ、それは寝たふりをするなどして、じっとしていればの話である。荷物を整理するなり、水を飲むなり、何か動きを見せると、「動いた!」といった視線が一気に集まる。
となりの黒綿棒(日に焼けた黒い肌が特徴の先輩ホームレス)はタオルを顔にかけ、やはり寝たふりをしている。組んだ脚が小刻みに揺れている。11時までふたりで寝たふりをし、人通りが少なくなると、待ってましたとばかりに同時に動き出した。もう少しするとランチタイムがやってきてしまう。
「それにしても朝は朝で暑いし、蝉がとにかくうるさいですね。夏でこんなにへこたれていては冬なんて越えられそうにないですよ」
夏日陰で水を飲んでいれば死ぬことはないだろうが、冬の寒さは命にかかわってくる。凍死してしまうホームレスの話も聞いたことがある。
「路上で生活を始めてから気が付いたのだけど、得てして冬より夏のほうが辛い。冬はNPOが寝袋や毛布、防寒着を配ってくれるので包まっていれば問題ない。でも夏は対策のしようがないからね」
私はこの黒綿棒の話を機に、ホームレスと話をするときは「夏と冬どちらが辛いか」と質問をするようにしたのだが、ほぼ全員が「夏のほうが辛い」と答えるのだ。その理由はやはり、「冬はNPOやボランティアが防寒具をくれるから」だ。