「こういうキャリーケースよく見ますけど、一体何なんでしょうか」
ホームレスが路上に放置するキャリーケースにはいったいどんな意味があるのか? その答えを、取材のために2021年7月23日~9月23日までの約2ヶ月間をホームレスとして過ごしたライターの國友公司氏の新刊『ルポ路上生活』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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ホームレスが炊き出しに呈する苦言
7月31日。
翌朝、目を覚ますと黒綿棒が白い腕時計をしている。また誰かが金を恵んでくれたのかと思い近づくと、日焼けの跡だった。これまで付けていた腕時計の紐が切れ、時計自体もどこかで落としてしまったらしい。
いくら路上生活とはいえ時間がまったくわからないのは不便だと嘆いているので、「私はスマホがあるので時間くらいいつでも聞いてください」と言うと、主従関係ができるので聞かないという。
小田急第一生命ビルにあるファミリーマートの時計を見に行った黒綿棒が戻ってきた。一時間後に代々木公園南門でカレーの炊き出しがあるという。このカレーも肉が入っていないベジタブルだが、先週のクリシュナとは別の団体のようだ。クリシュナは毎週第二・第四土曜日開催なので、この日(7月31日)はお休みである。
この日の献立はこんな感じだ。
代々木公園でカレーを2杯食べる→14時から都庁下で食料の配給→夜8時頃キリスト教系団体がパンを配りに来る→夜9時頃「スープの会」がスープを配りに来る
代々木公園でカレーを食べて食休みして戻ってくると、ちょうど都庁下の炊き出しが始まっているという。寝床にいても一日が長く感じるだけなので、今日も付いていくことにした。一体、都庁と代々木公園の間を何往復するのだろうか。
「この炊き出しには毎週行くんですか?」
「カレーと中華丼が隔週で出されるので、カレーのときだけ行くようにしている。できれば中華丼には当たりたくないので。ただ、不意に中華丼が2週続くことがあるんだよね」