そして、いまや声優事務所の社員それぞれの努力ではどうにもならないくらい、声優たちの仕事は質も量も変化してしまいました。それなのにギャラが増えるわけでもなく、事務所と声優との間の取り分が大きく変わることもない状態が続いているのです。事務所の負担が増えるからといって事務所の取り分を増やすと、声優としてはこれまでより減るわけですから、なかなか難しい問題なんです。
声優のギャラを維持するには極端な話、声優事務所の業務体制がブラック化するか別の収入でなんとかせざるを得ない状態ともいえます。
未成年の声優の増加とノウハウの不足
声優事務所の仕事において質的な変化が起きているのは、若年層、とくに未成年の声優のマネジメント業務の増加です。これまでの声優事務所は、声優に対して「個人事業主主義」的、いわゆる「エージェント契約」的なスタンスで接してきました。つまり自立した「大人」をパートナーとして仕事をしてきたわけです。
しかし、心身ともに未熟な10代に対して、同じ態度で接することは適当ではないでしょう。本人だけではなく保護者の方ともコミュニケーションを取る必要がありますし、マネージャーは現場へ付いて回る必要があります。アイドルとして重用されるケースも多いため、様々なことからタレントを守らなければならないことも増えてきます。
事務所側がサポートしなければならない領分は、大人を相手にするよりはるかに多く複雑になることはみなさんも想像できるでしょう。いままでの声優事務所とはまったく異なる仕事に当たるため、労働力だけでなく独特の専門スキルが求められるところでもあります。
「声優とは大人として自立しているもの」という、これまで声優業界が前提としていたスタンスが通用しなくなっているのです。前述の通り、声優事務所側はもともとエージェント契約的なスタンスですから、こうした世の中の流れに対するマネジメント業務的なノウハウも不足していました。