大きな反響を呼んだ「日航ジャンボ機墜落事故」の放送
――その結果、『ニュースステーション』は報道番組としては異例の視聴率20%超え、ピーク時には30%にも達する人気番組となりました。細部へのこだわりはもちろん、テレビ番組ならではの視覚に訴える企画も話題になりました。たとえば、犠牲者が520人にものぼった「日航ジャンボ機墜落事故」を取り上げたときに「靴」を並べた企画がありました。
久米 あの企画は大きな反響を呼びました。犠牲者の数字だけでは、その痛ましさを伝えることは難しい。じゃあどうしたら伝わるのか。そう考えて提案したのが、亡くなった方の年齢、性別、職業に合わせて、履き慣らされた中古の靴を520足並べることでした。
広いスタジオに飛行機の図面を描き、座席表に合わせて520足の靴を並べた光景には、僕も目眩がしました。こんなにたくさんの人が亡くなったのか、と。あの日はお盆休みで、ジャンボ機は満席だったのです。「あの光景を見て泣いてしまいました」という視聴者からの声も、番組に数多く寄せられたと聞いています。
ただ、僕は企画を考えただけで、中古の靴を探して並べたのは番組スタッフたちです。だから、この企画を成功させたのは僕ではなく、スタッフの力ですよ。
斬新な企画を生み出すための「意外なコツ」
――とはいえ、久米さんの企画がなければ実現しなかった。なぜ数々の斬新な企画を生み出せたのでしょうか?
久米 それは、僕がテレビだけでなく、ラジオもやっていたからだと思います。ラジオは、「見えないものをいかにして見せるか」が問われます。だから、ラジオとテレビでは、使う脳が全然違うんですよ。
――どういうことでしょうか。
久米 たとえば、(前編でも話に出た)『永六輔の土曜ワイドラジオTokyo』で行った、ヌード中継もそう。
いまではさまざま観点からあり得ない企画でしょうが、乃木坂にある写真屋さんのスタジオを借りて、床に絨毯を敷いて、そこにタオル1枚だけをまとったモデルさんに横たわってもらって。そのタオルをバッと捲る様子を中継したんです。このとき僕は、「本当に全裸であることを伝えるために、お尻を叩きたい」と言ったのですが、担当ディレクターから「それをやると、品が悪くなる」と言われました。随分議論しましたが、僕が折れることになりました(笑)。
言葉だけで説明しようと考えた結果、本番中に「全体的に色白の肌です。お尻だけが更に白い。そのお尻に、3つ“あせも”ができている」と話したんですよ。あとから録音を聞いたら、それが正解だったなと思いましたね。もし僕の提案通りにしていたら、彼の言う通り品がなく、リスナーは興ざめしたはず。
どうしたら聞いている人に、リアルに正しく伝わるのか。そのためには何をして何をしないのか。音声だけが頼りのラジオを長年やってきたから、そんな考え方が癖になっているんです。それをテレビに応用させた、というだけのことなので。