中島みゆきさんから生出演を断られた理由
ところが一方で、よしだたくろう(のちに吉田拓郎)さん、荒井由実さん、中島みゆきさん、井上陽水さん、かぐや姫、松山千春さんら「ニューミュージック系」と呼ばれた新しい音楽の担い手は、コンサートを中心にファン層を広げながら、商業主義に染まることを嫌ってテレビに背を向けていた。
公明正大なランキングの弱点は、出演したい歌手が出演できなかったり、出演してほしい歌手に出演してもらえなかったりすることがまま起きるということだった。
初回の放送から、心配された事態は現実のものになった。当時、人気絶頂だった山口百恵さんの「赤い絆」が第11位、「秋桜」が第12位でベストテン圏外に。さらに4位にランク入りした「わかれうた」の中島みゆきさんからは、レコーディングを理由に生出演をやんわり断られたのだ。
正直なランキングを守り抜く
僕も大のファンである百恵さんの不在は、歌番組にとって致命的だ。しかも初回。百恵さんのスケジュールは出演に備えて空けられ、わざわざ大阪の放送局で待機さえしていた。それまでのテレビと芸能事務所の関係で「圏外だったので今回は残念ながら」という釈明はありえない。
普通なら10位と11位を入れ替えただろう。中島みゆきさんの代わりに百恵さんをという声もあった。だが、それを許せば最初に打ち立てた大原則が崩れてしまう。スタッフは百恵さんが所属するホリプロに出向いて、土下座をせんばかりに頭を下げた。
しかし初回で原則を貫いたことが番組の方向を決定づけた。すなわちデータは絶対いじらない。正直なランキングを守り抜く。そのため僕は毎週、
「○○さんは現在、全国ライブで忙しく、出ていただけませんでした」
「××さんはレコーディング中のため、出演は辞退させていただきます、とのことです」
と謝っていた。
結果的には、それが評価された。業界の関係者、出演歌手、そして視聴者も『ザ・ベストテン』のランキングにウソはないと信用してくれたのだ。そして、ユーミンや松山千春さんら出演を拒否してきた歌手が、この番組に出演するたびに評判となった。見方を変えれば、初回で百恵さんがベストテン圏外になったことが番組を成功に導く呼び水になった。