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「一番恥ずべきことは、知っていて、何もしないこと」俳優・東山紀之が“最後の舞台”で口にした意味深なセリフとは

2023/11/26
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 2023年9月に旧ジャニーズ事務所、SMILE-UP.の取締役社長に就任した東山紀之は、11月23日に主演舞台『チョコレートドーナツ』の大千秋楽を迎え、演者としての活動は年末恒例のディナーショーを残すのみとなった。

 現在、社長としての横顔しかほとんど語られない彼の最後の舞台はどのような様子だったのか。人生最後のステージから彼の幼少期まで遡り、人間・東山紀之について考えてみた。

東山紀之 ©文藝春秋

俳優としての最後の舞台『チョコレートドーナツ』

 時は2020年12月28日、渋谷・PARCO劇場の2回目のカーテンコールは観客が総立ちとなった。自らもダウン症で、ダウン症のある少年マルコ役を演じた高橋永は喜びを爆発させながら、上手から舞台中央にいるドラァグクイーン役の東山紀之に一目散に駆け寄り、まるで跳び箱でも飛ぶかのように、東山にジャンプして飛びついた。東山は筋肉質な腕で、飛び込んできた高橋をガシッと抱く。東山とゲイカップルを演じた谷原章介が、東山にとても懐いている高橋の姿を愛おしそうに見つめている。

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 この日、東山と谷原を演技で食った高橋永は相当手応えを感じていたのだろう。舞台の面まで出てきて、『笑っていいとも!』でタモリが観客の拍手を煽るマネまで始めた。

 宮本亞門演出で世界初演となった舞台『チョコレートドーナツ』は、新型コロナウイルスの感染者が出たことで、PARCO劇場の全27公演のうち14公演が中止に追い込まれた。出演者もカーテンコールでは互いにスペースを空け、まだ喜びを表せられなかった時期だ。

 どんよりとした世の中の空気を知ってか知らずか、感情をほとばしらせる高橋永。東山は満塁ホームランを打った打者を迎えるかのように、満面の笑みで高橋の頭をポンポン叩いている。クールなパブリックイメージのある東山紀之が興奮を抑えられずにいた。

『チョコレートドーナツ』2020年公演のキャスト(著者提供、PARCO劇場、2020年12月28日撮影)

 約3年後の2023年10月29日、東山はまたもやPARCO劇場に立っていた。NHKでドキュメンタリーにもなった『チョコレートドーナツ』の再演である。

 作品冒頭、ドラァグクイーン役の東山がスポットライトを浴びて、ショーパブのステージに登場するシーンがある。初演はコロナ禍で半数以上の回が中止になった悔しさを晴らすがごとく、東山は頭上に掲げた両腕が指先までピンと伸び、華やかなオーラを放っていた。

 しかし9月に急遽SMILE-UP.社長となり、この演目が生涯最後の舞台となった再演では、登場シーンも心なしか疲れのようなものが感じられた。実際に翻案・脚本・演出を担当した宮本亞門は、上演パンフレットで「今回は、東山さんの事務所社長への就任などで、上演が危ぶまれ、不安な日々が続きました」と語っている。