ジャニー喜多川氏の性加害をどこかしら想起させる舞台に
『チョコレートドーナツ』は、東山紀之の代表作となるであろう作品であった。元来、東山は器用な役者ではない。2008年の舞台『さらば、わが愛 覇王別姫』で演出をした蜷川幸雄にはこう言われている。
《「ヒガシ、おまえには情緒がないんだよ、情緒が」》(「週刊朝日」2010年4月9日号)
情緒を出そうとすると、過度に芝居がかってしまう。実は、『チョコレートドーナツ』再演の前半もそうだった。ところがマルコ役を演じるダウン症の丹下開登が登場すると、予定調和ではない丹下の演技に引っ張られるのか、東山の母性めいた人間性がドロっと出てくる。会話がよりスムーズになり、実母に捨てられた少年マルコを守りたいゲイとしての人間味があふれ出る。
『チョコレートドーナツ』は、同性愛者への差別と偏見が根強かった1979年のカリフォルニアで、ゲイのカップルが見捨てられたダウン症の少年マルコ(丹下開登・鎗田雄大・鈴木魁人 トリプルキャスト)を引き取って育てようとするストーリーだ。まさかセリフの1つひとつが、初演から3年経って、これほどまでに意味深に響くとは思わなかった。
ゲイカップルに引き取られているという偏見から、日本だと児童相談所に当たるアメリカの家庭局に連れられてきたマルコは、家庭局員に「あなたは下着で隠すところを、ルディとポールに触られたりしませんでしたか?」と聞かれる。また、ルディ扮する東山のセリフ「キング牧師が言ってた。一番恥ずべきことは、知っていて、何もしないこと」。そしてもう1つ、東山ルディが丹下マルコに対して言うセリフ。「私がマルコにしたいのは(この世が愛に満ちていることを教えるために)魔法をかけること」
ジャニー喜多川氏の性加害を否が応でも想起させるセリフだ。そして本来であれば、観客に魔法をかけるエンターテインメントの仕事を一生続けたかったであろう東山が、この舞台で役者稼業を終える。劇中に何度か出てくる「魔法をかける」のセリフを聞きながら、満員の観客がその意味を噛み締めていた。
再演のカーテンコールは4回、観客は総立ちだった。マルコ役の丹下開登は初演からの続投で、気心の知れている東山を温かく見つめている。高畑淳子、八十田勇一、まりゑも初演に引き続き連投のため、人生最後の舞台となる東山を力強い拍手で称えていた。そして当の東山は、初演にも増して腹筋が割れ、腕もちょっとムキムキになっていた。
「もともと僕は不器用で緊張するタイプ」
旧ジャニーズ事務所の後輩は、俳優以外にも非凡な才能を見せる人が多い。そのことをかつて東山はこう語っている。
《踊りの覚えは早いし、トークもうまいし、後輩ながら何と才能あふれた人たちだろうと感動しますよ。僕は、そういう後輩が出てきたことで、自動的に上に押し出されちゃっただけで、先輩として意識的に彼らに何かを教えようなんてことは、まったく考えてません。(略)実際、僕は後輩たちに負けないくらい努力してるつもりだし。まあ、彼らが僕のそういう姿を見て、何か学んでくれることがあるなら、嬉しいですけどね。》(「ポポロ」2001年12月号)
1985年12月に少年隊として『仮面舞踏会』でレコードデビューを果たすと、翌86年から2008年まで毎年続くオリジナルミュージカル『PLAYZONE』が少年隊の帰るべきステージのホームグラウンドとなる。