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《幼いころ、僕は在日の「シュウちゃん」の家に、毎日遊びに行っていた。焼き肉店をやっていたおばちゃんは、豚足とトック(おもち)をいっぱい出してくれた。

 

 いつもすきっ腹だった僕は、蒸した豚足に赤いコチュジャン(唐辛子味噌)をつけてむしゃむしゃ食べた。温かいトックのうまかったこと!》 (東山紀之『カワサキ・キッド』)

 図らずも『チョコレートドーナツ』で、俳優としての東山紀之は終わりを告げる。事務所の後押しもあり、自分のやりたい仕事をかなり具現化してきたに違いない。ちなみに彼が「許されるなら、その人生を演じてみたい」と語っていたのは、「韓国人の被爆者の人生」だ。

《差別のなかで、さらにまた差別を受けた人々はどんな人生をどんな人生観で生きたのだろう。演じることが許されるなら、その人生を演じてみたい。伝える必要があると思うからだ。(略)

 

 四十代以降になると、若いときより演じられる役が減ると言われるが、それは違う。

 

 人生の本質を演じられるのはこれからだ。

 

 人生の重みを出せるにはまだまだである。》(東山紀之『カワサキ・キッド』) 

 2023年11月23日、愛知県・Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホールにて、大千秋楽を迎えた『チョコレートドーナツ』で、東山は人生の重みを出し切れただろうか。

『チョコレートドーナツ』2023年公演のデジタルサイネージ (著者提供、PARCO劇場、2023年10月29日撮影)

 彼の原点となる地は、川崎・桜本のコリアンタウンだ。小学生からの愛読書は『はだしのゲン』だという。 

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 そして東山が高校入学と同時に家を出たため、暴力の絶えない家庭に置き去りにされた妹は、中学を卒業すると寮生活のある自衛隊に入隊する。除隊後、母と同じように美容師の資格を取った後、建設関係の仕事に就き、兄をしのぐバイタリティで働いているという。

 演者をなげうってでも、腹を決めた社長業。ぜひカワサキの反骨精神で邁進していってほしい。

【参考文献】

『チョコレートドーナツ』上演パンフレット(PARCO、2023年) 
東山紀之『カワサキ・キッド』(朝日新聞出版、2015年) 
「週刊朝日」(朝日新聞出版、2010年4月9日号)
 「ポポロ」(麻布台出版社、2001年12月号)
「婦人公論」(中央公論社、1997年9月号)
「せりふの時代」(小学館、2004年春号)
「ソワレ」(日本文芸社、1996年7月号)
 「トップステージ」(東京ニュース通信社、2008年2月号・4月号)
 「LOOK at STAR!」(学研、2008年3月号・4月号)