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「大河ドラマの主人公」なのに“悪辣”すぎる蔦屋重三郎の異端な人生 7歳で両親が離婚、吉原のガイドブックで出世、世話になったボスを速攻で裏切る…《主演は横浜流星》

2023/12/19
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 今さらながら補足させてもらうと――江戸の大きな「本屋」は書店だけでなく出版社と取次(問屋)も兼ねていた。扱う本は「書物」と「草紙」に大別された。書物は神仏儒、古典、歌書、学問などのお堅い出版物。草紙といえば肩の凝らないジャンル、子ども向けの絵本に大人の娯楽本、吉原細見なんぞも含まれる。高尚な書籍は「書物問屋」、エンタメ本や浮世絵なら「地本問屋」が扱う。両者の区別はハッキリとつけられていた。

 蔦重の次の目標は地本問屋に成りあがることだった。

 とはいえ、地本問屋は書物問屋から格下に見られていた。というのも、地本の「地」には文化の中心の上方から遠く離れているという意味合いがある。地方とは田舎のこと、京・大坂からみれば江戸もまた関東にある地方。地本に地酒、地女……いずれにも軽視と侮蔑が漂う。上等、上質な書物は上方から江戸へ下ってくる。そうでないものは「下らない」のだ。

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「蔦重の本を読むと江戸がいちばんってえ気になってくるぜ!」

 ほどなく蔦重は地本問屋の株を手にいれる。

 その頃には江戸が政治だけでなく、経済や人口でも上方を凌駕するようになっていた。

 蔦重は意中の戯作者を起用し、ナンセンス、滑稽、おちょくり、悪ふざけを満載した肩の凝らない作品を送り出す。そこには粋や通、はり、穿ちといった江戸ならではの美意識が根付いていた。

「蔦重のこさえるモンは粋じゃねえか」、江戸の民衆は江戸っ子気質を感じ取った。

現代にも通じるこのアップの構図は蔦重の時代に江戸で流行ったものだった 栄松斎長喜の版画「雪中美人と下男」(出典:ColBase

「粋」は最大級の褒め言葉、反対に「野暮」やら「半可通」といわれれば返す言葉もない。

「蔦重の本を読むと江戸がいちばんってえ気になってくるぜ!」

 蔦重が原動力となった地本ムーブメントの到来は、「京・大坂の本のほうが上等」というパワーバランスまでひっくり返してしまったのだ。

「大河ドラマの主人公」なのに“悪辣”すぎる蔦屋重三郎の異端な人生 7歳で両親が離婚、吉原のガイドブックで出世、世話になったボスを速攻で裏切る…《主演は横浜流星》

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