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 ところが、この考えに沿線自治体は反発した。リニア中央新幹線は国が定めた基本計画路線である。それが民間事業になったからといって、駅の建設費を負担せよとは納得がいかない。その声にJR東海は機敏に反応し、一転して中間駅も全額負担することにした。一刻も早く工事に着手して開業を急ぎたい。ここで躓いているわけにはいかない。また、中間駅を全額負担することで、沿線自治体と友好な協力関係を築きたいという思いもある。

 これで中間駅の建設費問題は平和的な解決を見た。しかし、リニア中央新幹線が通過するルートのうち、静岡県には駅を作る予定がない。南アルプスの山中に駅を作ったところで利用客はないからだ。しかし静岡県側から見れば「JR東海は静岡県だけ駅を作ってくれない」は、「県がさんざん要望してきたのに東海道新幹線の静岡空港駅を作ってくれない」という問題とシンクロして、JR東海に対する不信感につながってしまう。

 また、この一連の流れで、JR東海の主目的が東京、名古屋、大阪を結ぶことだというのがいっそう明確になった。リニア中央新幹線は、国家的に東京~名古屋~大阪の東西方向を発展させる路線として認知された。中間駅はあくまでも地域のまちづくりの問題という扱いだ。

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リニア中央新幹線は主に三大都市圏の東西軸と二重化で語られてきた

リニア中間線駅に、沿線の自治体は期待している

 しかし沿線自治体から見れば、決してそんなことはない。中間駅だって国土の発展に貢献する。むしろ中間駅を積極的に活用していくべきだ。そこで2022年3月25日、「リニア中間駅(4駅)を中心とする地域活性化に関する検討委員会」が設立された。事務局は一般財団法人計量計画研究所にある。計量計画研究所は高度成長期に発足し、首都圏を始め全国の都市計画について調査研究、推進してきた組織だ。現在は総務省と国土交通省の共同管理団体となっている。

 検討委員会の委員長は政策研究大学院大学名誉教授の森地茂氏。副委員長は一般財団法人計量計画研究所代表理事の岸井隆幸氏。委員の所属先は東京大学、国土交通省、総務省、経済産業省、内閣府、都市再生機構、神奈川県、山梨県、長野県、岐阜県、NTTアーバンソリューションズ、JR東海だ。つまり産官学の共同研究チームである。

リニア中央新幹線によって「日本中央回廊」が形成される

 2023年7月、検討委員会は調査研究成果として「リニア中央新幹線中間駅を核とする『新たな広域中核地方圏』の形成」をまとめ、公開した。11月6日には、このまとめを元にシンポジウムも開催されている。中間駅が設置される神奈川県、山梨県、長野県、岐阜県の各県知事が一堂に会して、中間駅を国土的視野で活用していくという決意表明が行われた。JR東海社長の丹羽俊介氏も出席し、その意思を受け止めた。