成功者を支える影の立役者の狂気を描く
――開君がブランドを存続させるために奔走する中、ジャン君は開君のアイディアをまるで自分のもののように話し、立ち回っていきます。読者からすればジャン君こそモンスターですが、作中では開君と仲のいいスタイリストが、開君を「あいつ、モンスターだから」というシーンがあります。はるなさんの中で、開君はどういうキャラクターなのでしょう?
はるな ジャン君が強烈すぎるので、共にブランドをやっていく人も強いキャラクターである必要があります。その一方で、読者に一番共感してほしいキャラクターなんですけど、スーパーマンすぎて私からは一番遠い人間かもしれません。だけど、彼がそこまで強い思いを持っているからこそ、この業界で短時間のうちに結果を出すことが出来た訳で、今後は開君の尋常ならざる正義感が、物語の大きい推進力になっていくと思います。
――自分の信念に揺らぎがない開君に憧れますが、彼らのブランド「アクオーズ」に入れ込むあまり、家庭に亀裂が入る描写もあります。(開君のパートナーの)桜子ちゃんはどういう人なんでしょう?
はるな 儲けは二の次で、ひたすら極地探検に行ったり、朝ドラ『らんまん』のモデルになった植物学者の牧野富太郎さんみたいに研究に没頭する人っているじゃないですか。そういう人と一緒になる配偶者の方って、傍からは「苦労してる」「見る目がない」なんて言われたりしますが、実は幸せな気持ちで支えていたりするパターンもあるなと思っていて、桜子ちゃんはそういうタイプですかね。
――たしかに、桜子ちゃんみたいな人はいますね。
はるな 開君は裏方タイプなので、牧野富太郎さんとはちょっと違いますけど、でもどちらも自分の夢の達成のためには、何もかも犠牲にできる異常さがある。私は、そういう天才肌の人ほど、やりたいことがやれるかどうかが重要で、功名心は薄いんじゃないかと思うんです。また今までのマンガって、そういった開君みたいな人が成功する物語が多かったと思うんですけど、現実社会だと、開君みたいな人はジャン君みたいな人の影にいたりする。
ノーベル賞を獲った人がいたとして、全てをその人が成し遂げたかどうかなんて、私たちには分からないじゃないですか。実は見えないところに真の天才がいて、ただ何となく収まりのいい人が表に出ただけかもしれない。そういう立役者の狂気とか、面白さみたいなものも描いていきたいと思っています。