背中一面の荘厳なタトゥー
筆者の前に現れた相川エリナ氏(30代、仮名)は、目が合うなり深々と一礼した。首元にちらっと見えるタトゥーが、15年以上前を思い起こさせる。すっと鼻の通った顔立ちが少しも変わっていない。当時、相川氏は世界的なミュージシャンが主催するフェスに出演するボーカリストだった。
新人ながら、背中一面に入れたタトゥーと繊細で力強い歌声が織りなすパフォーマンスは、会場に確かなインパクトを残した。その後、音楽番組のレギュラーに抜擢され、楽曲を順調に発表していたが、突如として活動を休止。現在は一般企業のデザイナーとして勤務し、小学生の男の子を育てるシングルマザーだという。
手元にある彼女のCDジャケットを改めて見ても、荘厳なタトゥーが目を引く。20代にしてこれほど大きなタトゥーを自らに施した経緯について聞いた。
「私は父がアメリカ国籍、母が日本国籍の、いわゆるハーフです。物心ついたときから海外の楽曲に触れ、アーティストという存在をリスペクトしていました。子供の頃から周囲には海外の方が多く、タトゥーを入れている人もいたので、自然と『私も入れたい』と思うようになり、高校生くらいのときにはすでに自分の意志を周りに伝えていた記憶があります。
ただ、両親はあまりいい顔はしなかったですね。とても厳格なんです。それに、タトゥーを入れると日本では浮いた存在になってしまいます。ただでさえ幼少期はハーフという見た目の問題でいじめられてきたので、心配してくれる気持ちもよくわかります。
年子の兄は硬派で頼りがいのある存在で、最終的には私のわがままに付き合ってくれる人。手先も器用なので、高校時代に一度だけ風呂場で針と墨を持ってきて彫らせたこともあります(笑)」
19歳の誕生日に
学生時代のタトゥーの真似事は、高校卒業後にすぐに本格的なものに変わった。
「最初のタトゥーは、19歳の誕生日に入れました。部位は、首の下と手首、それから腰です。
家族にショックを与えたらよくないので黙っていたのですが、ふとしたときに、自宅に遊びに来た叔母に『あ、タトゥー入れたのね』とバレてしまって。叔母は海外のロックミュージックに造詣があり、話のわかる人で、偏見もないので軽い調子で言ってくれたのですが、そこから仲の良い親戚中に話が広まり、結局全員にタトゥーを入れたことがバレました(笑)」
快活に、ときに笑いを交えて話す相川氏だが、前述のようにハーフが理由のいじめを経験している。必然的に、少数派が強いられる我慢や苦労に対して、現在でも繊細に反応してしまうのだという。