そんなタトゥーばかり入れて恥ずかしくないの?
「私が小学生のころは、『純粋な日本人ではない』見た目であるということが差別の対象になったり、ときに暴力のはけ口になっていました。
タトゥーについても似たような問題はあって、まったく知らない人から『怖い』『偉そうにするな』などの罵声を浴びせられたり、浅い関係性の人から『そんなタトゥーばかり入れて恥ずかしくないの?』などとせせら笑われたこともあります。確かに、タトゥーを入れた人たちの一部には、自身の力を誇示するのが目的の人もいるでしょう。しかし私が知る限り、タトゥーを入れている人たちは、個人では抱えきれない思いを身体に刻み込んでいるように思えるのです」
相川氏の身体に刻まれたタトゥーにはこんな意味がある。
「芸能活動を始めた矢先、兄が事故で他界したんです。これまでさまざまなことを2人で乗り越えてきた無二の存在が突然消えてしまったことに、憔悴しました。
兄の遺体をみると、左側の損傷が激しく、右側はきれいなままだったのです。私はキリスト教を信仰しているのですが、キリスト教において“右”は重要な意味を持ちます。たとえば十字を切るときは必ず右手を使用しますし、祈りで手を合わせるときは右手を上にします。聖書には『全能の父なる神の右に座したまえり』(新約聖書マタイ福音書)という言葉もあります。
そこで、私は神様が右半身にいてくださるなら、左半身には兄の名を彫ろうと考えました」
生前最後に会話したとき、兄からはタトゥーを両親が心配しているとして、こんな忠告を受けたという。「好きに生きるのもいいけれど、バランス良くね」。相川氏は、兄の死をきっかけに、彼の名を刻んだタトゥーを最後にしようと決心した。
天国の彼らと自分をつなぐ
「兄の死から数年で、叔父が病気で亡くなりました。叔父は芸能活動を熱心に応援してくれていて、いつもライブを楽しみにしてくれていました。幼少期から手のかかる私を可愛がってくれて、器用な生き方ができない代わりに愛情の深い人でした」
さらにその数年後、10年以上交際した婚約者が事故死する。
「最初のタトゥーを彫りに行くときもついてきてくれた人で、心が広くて波長が合い、一緒にいると芯から安らぐことのできる存在でした。将来もずっといられると思っていたので、亡くなってしまった前後のことはほとんど覚えていないほどです。端的にいえば、彼は私の生き甲斐でした」
兄の死後、タトゥーは最後にすると誓った相川氏だったが、これらに関連して、故人との繋がりを感じられるデザインを腕に刻んだ。相川氏にとって、タトゥーは重い意味を持つ。
「先に天国へ旅立った彼らと繋がっているような気がするので、気が引き締まります。不品行は働けませんし、怠惰な自分が出てきて易きに流れそうになったときも踏み止まるよすがになるんです」
当人にとっては他に置き場のない、祈りにも似たタトゥー。しかし、当然ながら世間は必ずしもその深淵を知らない。現在、小学生の男の子を育てる相川氏は、こんなトラブルに遭遇した。