2023年10月11日、21歳の藤井聡太は王座戦第4局で永瀬拓矢を破り、3勝1敗で王座のタイトルを手にした。このとき史上初の八冠棋士が誕生した。

 2023年は、大谷翔平の年であると同時に、藤井聡太の年になった。

 長年、朝日新聞の将棋記者として藤井の取材を続けてきた北野新太氏は、「文藝春秋」2024年1月号掲載の「藤井聡太 肯定の天才」で、この1年を振り返りつつ、その強さの秘密に迫った。

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「八冠」の色紙を掲げる藤井聡太 ©文藝春秋

メンタルだけではない、身体も頑健な藤井

 藤井には、若さゆえの経験不足からもたらされるメンタルの弱さはないのだろうか。

 北野記者が増田康宏七段にその点を聞いたところ、正反対の答えが返ってきた。

増田康宏七段 ©共同通信社

「藤井さんで最も別格なのはメンタルです。ブレないし、不調に陥らないし、常に100%を指せる。今後、技量で藤井さんを上回る棋士も現れるかもしれないけど、メンタルで藤井さんを超える棋士は現れないと思う」

 メンタルだけではない。身体も頑健だ。

 デビュー以来、病欠したことも体調不良を訴えたこともない。コンディションが悪そうなまま対局に臨んでいる姿も見たことがない、と北野氏は言う。

 別格のメンタルの強さとフィジカルのタフネス……。弱点が見つからない。

結果を残せば変わるのが普通だが…

 藤井の長年の研究パートナーで、王座戦で藤井に負けた永瀬九段は、藤井の強さをどう表現するのか? 北野氏は永瀬にも話を聞いた。