1ページ目から読む
6/6ページ目
DNA型は一致せず
2004年12月8日、科警研と帝京大に嘱託した鑑定結果が出揃った。
科警研は「判定不能」。一方、帝京大法医学研究室では吉井富夫講師が検出に成功した。吉井講師の鑑定手法は「ネステッドPCR法」と呼ばれるもので、DNAを増幅するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査技法の一種だ。新型コロナウイルス感染症の蔓延で昨今、広く知られるようになった「PCR検査」と同じ原理を用いるものだ。
骨片5個のうち4個から同一のDNA型を検出し、残る一個からは別のDNA型が検出されたが、いずれもめぐみさんのDNA型とは一致しない――。
この結果を受け、午前中に漆間長官まで報告。正午からは瀬川警備局長とともに、官邸の二橋正弘内閣官房副長官に報告することとなった。
鑑定結果は全マスコミの注視するところであり、取材合戦は異常な熱を帯びていた。そのため情報の保全を考えて、二橋副長官には総理官邸向かいの内閣府別室にお越しいただいた。そこには既に訪朝団長の藪中局長、齋木昭隆外務省アジア大洋州局審議官らが揃っていた。
「北朝鮮側提供の検体から採取したDNA型は、めぐみさんのものとは一致しなかった」
瀬川局長がおもむろに結果を口にすると、二橋副長官の表情が明らかに険しくなっていく。藪中局長と齋木審議官はその場で直ちに、官邸用の当面の想定問答を書き始めていた。
この後、「偽遺骨」は北朝鮮に対する怒りとなって、日本の政治、外交、社会に大きなうねりを引き起こすことになる。