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医師や看護師への聴取

 外交当局間の日朝政府間協議の後、日朝実務者協議は到着翌日、2004年11月10日午前11時、高麗ホテルの宴会場にしつらえた会議室で始まった。中央に対面する形で配置されたテーブルに双方7、8人が向き合う。私と同行の警察庁外事課員の計3人はテーブルの中央付近に着席した。

 まず午後1時まで総論・調査に関する方法論を話し合うセッションがあり、休憩を挟んで午後2時から我々が北朝鮮の「調査委員会」に寄せた疑問点について先方が個別に回答を始めた。

「調査委員会」に突きつけた質問は、北朝鮮側が「死亡」と回答した横田めぐみさんら8人の消息や、入境した事実が確認できないと主張する4人の被害者に関するものだった。

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 横田めぐみさんについては、物証として写真や北朝鮮での身分証明書、自筆の紙片などを要求した。これらは指紋検出や写真、文書からの本人との同一性を確定するために必要だった。

横田めぐみさん ©EPA=時事

 そして、めぐみさんの元夫とされるキム・チョルジュン氏か、めぐみさんが入院していたとされる「49号予防院」が保管しているはずの「めぐみさんの遺骨」とされるものも、DNA型鑑定などによる同一性鑑定に用いる趣旨で求めた。

 さらに、めぐみさんの生活状況や健康状態を知り得るキム・チョルジュン氏本人や入院先の「695病院」の医師、また北朝鮮側の主張によるところのめぐみさんの「自殺」の直前に散歩に同行していた「49号予防院」の医師や看護師、埋葬に関与した者らへの直接聴取も要請した。

「よど号」メンバーと「KYC」

 加えて、我々は、被害状況の捜査から拉致が北朝鮮特殊機関の計画的・組織的な犯行だったとみて、以下のような疑問点も提示していた。

 まず、欧州で拉致された男女3人の被害者、石岡亨さん(拉致当時22歳)、北朝鮮で石岡さんと結婚したとされる有本さん、そして松木薫さん(同26歳)の3人について。

 警察の最大関心事は、特殊機関「朝鮮労働党対外連絡部56課」の副課長で工作員、キム・ユーチョル――「KYC」と呼ばれていた――と、その配下で指示を受け、石岡さんら3人を拉致したとみられる共産主義者同盟赤軍派の「よど号」グループとの関連性だ。

 北朝鮮側は認めていないが、有本さんは英国留学中にデンマークのコペンハーゲンに旅行した際、「よど号」グループの魚本(安部)公博容疑者と中華料理店で会食したとの証言がある。

「よど号」メンバーの元妻による証言だが、我々は、様々な角度から検証した結果、真実性が高いと判断していた。さらに、有本さんが消息を絶つ直前、コペンハーゲンのカストラップ空港で「KYC」と一緒にいる場面を第三国の情報機関が撮影した写真の存在だ。