自然豊かな播磨国(兵庫県南部)を舞台に、心優しい陰陽師の兄弟がさまざまな怪異に迫る――。上田早夕里さんによる「播磨国妖綺譚」シリーズの第一作『播磨国妖綺譚 あきつ鬼の記』(文春文庫)が12月6日に、第二作『播磨国妖綺譚 伊佐々王の記』(単行本)が、12月8日より発売されました。

 発売を記念して、上田さんへの特別インタビューを敢行。第三弾では、SF小説を数多く手がける上田さんならではの「ファンタジー」の作り方について伺いました。

『播磨国妖綺譚 伊佐々王の記』(文藝春秋)

世界観を一切作らない代わりに、丁寧に調べる

――上田さんの作品は、どれも世界観が作り込まれていて、読んでいると作品の中に入り込んでいるような気持ちになります。世界観を作るために気をつけていらっしゃることがありましたら、ぜひ伺いたいです。

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「どうやって世界観を作っているのか」という質問をよくいただくのですが、私は世界観は一切作らないタイプの作家です。書きたいことや、興味を惹かれることがあったら、まずはそれに関する資料を丁寧に調べます。

「播磨国妖綺譚」の場合は、舞台は室町時代の播磨国(兵庫県南部)だと決まっていたので、「室町時代中期とはどんな時代だったのか」「播磨国はどんな国だったのか」ということを調べていきます。そうしていると、小説にすべき世界の雰囲気や全体像が、あるとき一瞬ですべて見えてくる。

写真:アフロ

 見えたものを物語にするために、また現実の資料にあたります。でも、資料を読むにも限界はありますので、調べきれない部分は想像力で補う。集めた資料から類推して「こういうこともありえるんじゃないか」と想像するのが、小説としての面白さの見せどころですね。

 架空の世界は、書き手と現実との接点からしか生まれない――というのが、私が小説を書くときに考えていることです。物語の世界は、今見えている現実の世界とは形や見え方が違うだけで、根っこはすべて現実と繋がっている、と。そう考えながら、「播磨国妖綺譚」シリーズや、『華竜の宮』などのSF作品を作っています。