1ページ目から読む
3/3ページ目

 これを避けるには、国債が償還されるまで日銀が保有する選択しかないが、現在、日銀が保有する国債の平均残存期間は6年を超える。つまり、仮に植田総裁が直ちに金融政策を正常化したところで、総裁任期の5年間は緩和効果が事実上消えないのだ。

 また、長短金利操作の修正が長期金利の上昇を招いたように、正常化に伴う弊害もある。大手銀行は23年8月以降、住宅ローンの固定型の基準金利を0.1~0.2%引き上げた。植田総裁は9月の決定会合後の会見で、「上昇幅も限定的で、固定金利の利用者の比率も高くない」と、問題はないとの考えを示したが、ならば住宅ローン利用者の7割を占める変動型の金利が上昇したときはどうするのか。

 変動型の金利が上下するのは、日銀が短期金利を上げ下げした時だ。

ADVERTISEMENT

お金 ©AFLO

日銀は劇的な金融政策の変更を封じられている

 変動型の基準金利となるのは、都市銀行の短期プライムレートで、ここ十数年間変っていない。しかし、日銀がマイナス金利を始めた16年2月、変動型の金利を引き下げた金融機関は多かった。したがって、日銀が今後、マイナス金利を解除すれば、変動型の金利を引き上げる銀行は相次ぐだろう。

 日銀が短期金利を上げ続ければ、変動型でローンを組んでいる家庭や、多くの住宅建設業者は破綻しかねない。

 しかし、それは杞憂だろう。異次元緩和でも経済が劇的に上向くことはなかったのに、短期金利を上げ続ければ、すぐ不景気に陥るのが実情で、日銀は劇的な金融政策の変更を封じられているからだ。

 ただし、日銀が金融緩和を続ける限り、円安と輸入品の高騰によるインフレを国民は甘受せざるを得ない。そして、日銀が夢想する、政策変更に十分な賃上げが実現しなければ、私たちの実質賃金はマイナスを続け、生活はどんどん苦しくなるだろう。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。