2023年秋、金融市場は植田和男日銀総裁の発言に右往左往した。きっかけは9月9日の読売新聞のインタビュー記事だった。マイナス金利解除の時期を問われた植田総裁は、条件となる24年の春闘の賃上げ予想や物価の動向について、「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」と答えた。
これに対して為替市場は、年内のマイナス金利解除の可能性が高まったとして、一時、円高に振れた。
異次元緩和はもはや限界、金融緩和の修正は不可避?
ところが、9月22日の金融政策決定会合終了後の記者会見で、市場の反応は総裁の意図したものかと問われ、
「(総裁の立場で「可能性は全くない」などと発言すると)決定会合の議論にある種の縛りをかけてしまいます」
と、「ゼロではない」に特段の意図はなかったと回答。金融市場で高まっていた年内のマイナス金利解除観測は後退し、週明け25日の東京外国為替市場は1ドル=148円半ばと、23年最安値の円安となった。10月は一時150円をつけた。
実際、読売のインタビューでも22日の記者会見でも植田総裁は同じ言い回しで説明しており、自身の発言が政策変更と関係づけられないようにする意図がにじんでいた。
にもかかわらず金融市場が過敏に反応したのは、異次元緩和はもはや限界であり、金融緩和の修正は不可避であると考えているからだ。
また、22日に公表された8月の消費者物価指数の総合指数(除く生鮮食品)は前年同月比3.1%増となり、12カ月連続で3%を超えた。黒田東彦前総裁以来、日銀が異次元緩和で目標としてきた2%は17カ月連続で達成したことになる。この数字を見れば、金融引き締めに転じて、インフレ抑制に動く時期ではないかと認識するのは当然といえる。