またITER設計時にはなかった技術を後発組は利用できる。プラズマの振る舞いを精密に予測するコンピュータの高機能化や超電導磁石のパワーアップは、プラズマ制御の可能性を一挙に広げた。
先ほど挙げたCFSの強みは、ITERが使わない高温超電導線材の使用に関するノウハウを持っている点。これを活かし、強力な磁場の発生でプラズマをギュウギュウに縛って制御する。そのおかげで同社の核融合炉は設計上、ITERの5分の1ほどと小さく済んでいる。
50年時点で温暖化ガスの排出実質ゼロを目指す「パリ協定」が15年に採択されたのも追い風になった。脱炭素技術に注目する投資家の資金が核融合スタートアップに流れ込む契機を作ったからだ。ヘリオンにはChatGPTを世に送り出したOpenAIのサム・アルトマン、ペイパル共同創業者のピーター・ティールなどが、CFSにはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツが代表を務めるファンド、イタリアの石油大手エニなどが出資する。
日本でも京都大学発の核融合スタートアップが
日本にも核融合スタートアップが生まれている。京都大学発の京都フュージョニアリングはブランケットや、核融合反応を邪魔する物質を排出するダイバータ、プラズマを加熱するジャイロトロンなどの技術を開発する。23年3月には英国原子力公社に対し、ブランケットの素材などを開発する協定を結んだ。他にも大阪大学発のエクスフュージョンがトカマク式と並ぶ代表的な核融合の方式であるレーザー核融合の商用化を目指している。炉そのものを開発するところが欧米には多いが、炉は目指さずあえて周辺機器に絞って開発に取り組んでいるのが日本の特徴だ。炉の方式は多種多様だが、周辺機器は共通する場合が多いので賢い戦略と言える。
ヘリオンやCFSが成功すればさらに各企業の取り組みが加速するはずだ。この1、2年が核融合発電の未来を占う上で重要な期間になるだろう。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。