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 ヘリオンに数年遅れの30年代初頭の商用炉稼働を目指しているスタートアップが、マサチューセッツ工科大学発の米コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)だ。同社が開発する核融合炉はトカマク式に分類される。この方式の典型的な形はドーナツ型で、内部でプラズマに電流を流して高温にする一方、見えない「磁場のカゴ」でプラズマを閉じ込め、核融合反応を起こし、生じたエネルギーをブランケットと呼ばれる熱交換器で熱に変換。その熱を用いて水蒸気でタービンを回し、電力を取り出す。

 トカマク式は1950年代に旧ソ連で開発され、その後も継続的に改良が重ねられてきた。ヘリオンが、新規性が高く、未知の要素が多い方式での一発逆転を目指しているのに対して、CFSは手堅い戦略を取っていると言える。

 フランス南部で建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)でも、トカマク式が採用されている。ITERは完成までに約6兆円が費やされる見込みだ。このような資金力で圧倒する国際プロジェクトが進行中にもかかわらず、なぜスタートアップが次々と生まれたのか。

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トラブルに見舞われ、どんどん遅れる完成目標

 主な理由は同プロジェクトの遅延だろう。当初は13年に建設完了、16年には核融合実験をはじめる予定だった。しかし何度もトラブルに見舞われ計画変更を余儀なくされた。近年の完成目標は25年だったが、さらに遅れる見込みだ。

写真はイメージです ©AFLO

 ITERが遅れると次のDEMOと呼ばれる原型炉の建設も遅れる。ITERではあくまで核融合反応で十分なエネルギーを得られるかを確かめるだけで、発電できるかはDEMOで検証する。DEMOに必要なのが、先に述べたブランケットなど周辺機器だ。DEMOのために周辺機器を開発していたものの、ITERの遅延で、研究成果を活かす機会を失った研究者たちは焦りを感じたに違いない。彼らの一部がスタートアップ設立の道を選んだのではないか(なおDEMOの建設を前倒しする動きもある)。