多くは白人男性だったという。蘇雨桐がなぜ自分の家を知ったのかを尋ねても、ほとんどの男は無言で立ち去った。彼女は混乱した。
「もちろん気持ちが悪いですよ。わけがわからず、もしかして私が入居する前の住民がセックスワーカーだったのかと思ったんです。しかし、家の表札を隠してみたところ、彼らの訪問はピタッと止まった。なので、彼らが『私』を訪ねていることがわかりました」
ちなみにドイツでは自宅に表札を掲げないと郵便物が届かないため、誰もが表札を出す。
合成ヌード写真がネット上に拡散
やがて訪問客の男性の一人から、コミュニケーションアプリのWhatsAppの性風俗コミュニティで書き込みを見たと教えられた。蘇雨桐の顔写真と自宅の住所が掲載された偽物の風俗広告が、何者かによってネット上にバラ撒かれていたのだ。
買春男たちの訪問は約半年間、彼女が引っ越すまで延々と続いた。携帯電話にもしばしば、ドイツ語で「価格」を問い合わせる着信があった。
さらに、自分の顔が合成されたヌード写真やポルノ動画、宛名に彼女の名前が書かれたセックスグッズやセクシーランジェリーの領収書といったフェイク画像がネット上にバラ撒かれた。ツイッター(現在は「X」)に「蘇雨桐の爛れた欲情」といったハンドル名の嫌がらせアカウントがいくつも作られ、下品な内容のメッセージが書き込まれた。
「ただの愉快犯ではありません」
ほどなく、中国出身でカナダ在住の女性民主活動家が、自分と同様の被害に遭っていることが判明する。一連の不気味な出来事は個人によるハラスメントではなく、中国当局からの攻撃だと思われた。
「他にも私の名義で、ベルリンをはじめロサンゼルスやイスタンブール、香港など世界各地の高級ホテルが勝手に予約され、『部屋に爆弾を仕掛けた』と現地の警察に虚偽のテロ通報をおこなう嫌がらせが繰り返されました。それで、各国の警察から電話が掛かってくるんです。高額な宿泊費をわざわざ支払って予約していたケースもありましたから、ただの愉快犯ではありません。資金力を持つ組織がおこなっている行動です」
蘇雨桐が電話番号を変えても、攻撃者はどこからともなく新しい番号を嗅ぎつけ、すぐに嫌がらせを再開してきた。彼女の職業はフリーランスの記者であり、外部の不特定多数の人物に連絡先をまったく教えないことは不可能だった。
「強姦して殺す」という脅迫も
2022年11月から、攻撃はさらに過激になった。
コミュニケーションアプリのテレグラムを通じて、より直接的な嫌がらせや脅迫を受けるようになったのだ。