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「『殺手!!!!!』(殺し屋)というハンドルネームの人物から、見るに堪えない文章が大量に送られてくるようになりました」

 彼女はスマートフォンを取り出し、会話内容を記録したスクリーンショットをいくつも見せてくれた。

「お前の写真でオナニーしてやった」

「強姦して殺す。俺がどれだけデカいかじっくり味わえ」

「仲間と一緒に輪姦してやる」

 衝撃的だが、用いられている文言は信じられないほど品性に欠けている。

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中国人には「よくある手法」

「ドイツの警察に通報したんですが、はじめは彼らも事情を理解してくれなかった。『中国国家がこんなに粗雑なことをやるわけがない。変態的なストーカーが個人的にやっているんじゃないですか?』と言われたんです。ニセの爆破予告ですとか、自分が受けているいろいろな被害を説明して、現在はもう理解してもらえたんですが」

攻撃工作の実行者から送りつけられた脅迫メッセージ。彼女や知人のレイプや殺害を予告している。

 中国の「工作」は、高級ホテルに大量のニセ予約を入れるために数十万円程度のカネをかけているものの、その内容は一般人がおこなう嫌がらせと変わらない。

「その通りです。彼らの行動はまったくレベルが高くない。でも、これは私が中国国内にいたときから見知っている国保のやり口と同じ。中国人にとってはよくある手法です」

 通称「国保」とは、中国公安部の国内向けのインテリジェンス組織である国内安全保衛局(現・政治安全保衛局)のことだ。対象者への嫌がらせ工作や取調べ中の拷問も辞さない点で、戦前の日本の特高警察のイメージに近い組織である。

 蘇雨桐のような在外華人に対する攻撃は、おそらく国保とは異なるセクションが担当しているはずだが、現場の工作手法に大きな差はないようだった。

コスパがいい嫌がらせ

 蘇雨桐は「自分の考えですが」と前置きしてこう話す。

「スパイを専門的に養成して、他国に送り込んで工作させる作戦は非常にコストがかかります。でも、ゴロツキを雇って汚れ仕事をやらせれば、すごく安く上がる。ターゲットの名誉を毀損して疲弊させることが目的ならば、そのほうが割に合うのかもしれません」

 ちなみに一昔前までの中国は、海外に逃亡した自国の反体制派をほとんど放置する姿勢を取ってきた。王丹やウアルカイシといった天安門事件のリーダーや、ゼロ年代までに海外に亡命した民主派の知識人などがそうである。

 かつてユーチューブやXが普及していなかった時代、海外に脱出した言論人が中国国内に対して影響力を持ち続けることは困難であり、通常は活動が先細る。ゆえに当局の側にも、反体制分子を海外に追い出せば「上がり」という認識が事実上存在していた。汚職官僚(貪官)や経済犯も、海外に逃げた者にはほとんど手出しができなかった。