「お金のことで言えば、『僕、こんなに稼いじゃってごめんなさい』って言ってた人がいて、何で謝るんですかって聞いたら逆に固まられちゃって」(中野信子)

 日本人はなぜ「自分よりも得した人間」を叩くのか……? 脳科学者の中野信子氏とデーブ・スペクター氏の対談を掲載した新刊『ニッポンの闇』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

なぜ日本で「自慢話」をしてはいけないのか? 写真はイメージ ©getty

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ルールが守られやすい国

デーブ・スペクター(以下、デーブ) 日本はすごく規律正しいですよ。規律正しさが悪いわけじゃないけど、日本にいると不思議なことが多いですよ。ロックコンサートが終わると1列ずつ帰るとか。

中野信子(以下、中野) フランスに住んでいたときは、フランス人って自分の意見を言わないと、なんだろ、人として存在してないみたいに扱われるじゃないですか。

デーブ アメリカもそういうところありますけどね。

中野 あれはあれで日本人としては疲れてしまうところがあるけど、どうして日本はこんなに横並びが強くなっちゃったかなとは思うんですよね。

デーブ 僕、講演をやる時に上映するものがあって、ひとつは駅前のタクシー待ちね。その映像はたまたま広島のなんですけど、全国同じですよ。駅前にタクシー何十台も待ってるでしょ? あれが1台ずつ順番にお客さん乗せてくのを上から撮影しているってやつで、僕なんかには面白くてしょうがないですよ。タクシーも客ももうきちんと待ってるから。ほんと、規律正しい。

中野 日本のコロナの死亡率、OECD諸国で最低だったというデータが出たことあるんですよね。ウォール・ストリート・ジャーナルで、第7波の前でしたけど。100万人当たり何人の死者が出たかって数字なんですけど、日本はヨーロッパ諸国の10分の1ぐらい、アメリカの12分の1ぐらい。その数字に対するコメントとしては、日本人は肥満が少ないからねというのと、日本人は自分からワクチンを受けに行くからねとか、マスクを外さないからねとか、規律正しさに関するコメントが多かったのが印象的で。

 つまり、諸外国から日本人ってそういうふうに見られているんだなっていうのを感じたんですよね。確かにその通りだなとも思って。いまやその規律の中にテレビも含まれちゃってて、オレたちが我慢しているのにあいつらは何好き勝手やってるんだみたいな視線がテレビに対して向いてるのかもしれない。

デーブ コロナの時もね、近くに誰もいないのにレポーターがマスクしてたりね。

中野 部屋に一人しかいないのにマスクとかね。

デーブ 僕も新幹線に乗ってる時、隣に誰もいなければマスク外してたけど、ワゴン販売の人が来たら慌ててつけてたよ。

中野 なんでですか。

デーブ 誰かが通る時に慌ててつけると真面目に見えると思って(笑)。意識高いって好感度上がるかなって。つけっぱなしだとそう思ってくれないじゃないですか。

中野 ……なるほど。

日本は自慢がダメ

デーブ だから自慢するとかもダメじゃないですか、日本は。すぐ叩かれる。

中野 これはファンサービスかな?って場合もあるじゃないですか。SNSとかだと。おいしそうなお料理や高そうなワイン、おしゃれなライフスタイル。

デーブ それも自慢に見えちゃうと、とたんに来るでしょ。日本ってみんな90%中流家庭、中間というふうにしないといけないじゃない。