26歳で作家としてデビューして以来、映画監督、俳優、オペラや舞台演出など、広い分野で才能を発揮してきたクリストフ・オノレ。新作映画『Winter boy』は、彼の思春期の苦悩をスクリーンに再現する自伝的色彩の濃い作品だ。

 ブルターニュ地方の小さな町で育った彼が、父の交通事故死をきっかけにひきこもりとなった体験を、家族の愛や友情、自分探しの心の旅を繊細に脚色、設定をサヴォアに移しフィクションとして現代に再現した。

新星ポール・キルシェは、父親は俳優であり『肉体の森』などで知られるジェローム・キルシェ、母親は『ふたりのベロニカ』『トリコロール/赤の愛』のイレーヌ・ジャコブ。リセの最終学年のとき、「T'aspécho ?」(アドリーヌ・ピコー監督)のキャスティング・ディレクターだった人物の目に留まり、15歳の少年アルチュール役でいきなり主役デビューを飾った ©2022 L.F.P・Les Films Pelléas・France 2 Cinéma・Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma 

クリストフ・オノレ監督の17歳の苦悩を現代に再現

「確かにこの作品は僕の人生についての内容ではあるが、ノスタルジックな映画にしたくはありませんでした。記憶の中から、当時感じた絶望感やエモーションを再現したいと思いました。自分が体験したエモーションをツールにして、現代の若者像を描きたかったんです。

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 この作品には二つのコンセプトがあります。僕が体験した感情を正直に再現することと、17歳だった僕の感情を今に置き換え、現代の若者を通して語るという点も重要でした。それを主演のポールに望みました」

 とオノレ監督。

クリストフ・オノレ監督 ©REX/AFLO

主役のポール・キルシェは主演男優賞を受賞

 主人公である17歳のリュカを演じたポール・キルシェの演技は自然で、それがかえって現実的であり説得力を持ち、気が付くと観る者は彼の心の中へと引き込まれていく。この見事な演技が評価され、昨年度サン・セバスティアン国際映画祭では主演男優賞を受賞した。

「脚本を受け取った時、10代のクリストフを演じることは責任重大だと感じました。正確に演じる必要性があったし、また脚本に込められた意味を自分で理解できないところもあって、それを解明していかなければなりませんでした。

 脚本が届いてから撮影まで5カ月ありました。その間に、クリストフはいくつかの課題を僕にくれて、それがとても役作りをするうえで貴重なものでした。

 実際の撮影の時は、クリストフからは演技の指導は一切なくて、僕自身が役を見つけ出していくという作業でした」

 とキルシェは語る。