母親役は名優ジュリエット・ビノシュ
本作ではオノレ監督自身が彼の父を演じている。そして母を演じるのが名優ジュリエット・ビノシュだ。フランスの誇るベテラン女優と若手の初々しい共演が本作の見どころのひとつでもある。
ビノシュは、
「私がクリストフの母親を演じ、監督が私の夫を演じたのよね(笑)。彼の中には母への強い絆や願望があると思う。二人の関係は常に最高だったわけではないようだけど、母を心の底から愛しているのは真実だわ。だから僕の母親を演じてほしいと言われたときは、感激したしうれしかった。
それほど彼を良く知っているわけではないのに、突然自分が彼の身近な存在になったような気持ちになったの。尊厳を保ちながらも親密な関係が作れたと思う」
と語る。
リュカの兄役を演じているヴァンサン・ラコストとともに、この3人が生み出す微妙な家族関係は、かえってホンワリとした共感を観る者に与える。
ビノシュが続ける。
「この役を演じたとき、彼女がいかにして息子たちに母親として対処しようとしたか興味をひかれました。兄はすでに自分の人生を歩み始めているのに、弟は非常にもろさを感じる。そんなリュカに彼女はキーを手渡し、ひとりで車を運転してみなさい、と言っているような感じなの。
第三者から見れば、乱暴なやりかただけど、そのくらいしなければ自立できないし、息子が内省的になってひきこもらないための手段なのです。それが彼を助けることになったのだと思う。これらがクリストフ自身の体験と知れば、なおさら心が動かされたわ」
と母親役の演技について説明する。
肉親の死を体験をした人の想いに近づく大切さ
本作は、少年の成長をたどりつつ、身近な肉親の死にどう向き合うかが大きなテーマでもある。
「死というのは、突然訪れ、それが大きなショックとなる。私自身は似たような体験をしたことはないけれど理解はできます。あのような体験を潜り抜けることで人は強くなるのだなと思う」
と夫の死によって大きく揺さぶられる家族を演じた心境を語る。