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 NHK関係者が解説する。

「この問題自体は、今年1月に新会長に就任した稲葉延雄氏のもとで発覚したものですが、元々は前会長の前田晃伸氏のもとで進められていた計画でした。悪質だったのは、当時の前田会長が、副会長や一部の理事たちの間で稟議書を回し、その承認を得るだけで手続きを済ませて、早々に9億円の支出を決めてしまったことです」

 前田前会長は、本来不可欠であるはずの総務省からの認可や、実施基準の変更といった手続きを踏むことなく、稟議という仮の決裁で、違法性のある重大事案を進めていたことになる。

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 NHK内では今年4月に問題が発覚、事態を重く見た稲葉会長は「特命監査」を命じ、前田前会長や理事たちに聞き取り調査を行っている。最終的には「ガバナンス上、非常に大きな問題がある」と結論づけ、前田前会長の退職金を10%カットする異例の処分を下した。さらに稟議を承認した理事たちにも厳重注意を行い、報酬を一部返納させる罰則を与えた。

 だが、これで事態が収まったわけではない。

「NHKは、当時の執行部への内部監査の結果を非公表としているため『本当に前田前会長の意向で計画が進められたのか』『役員たちは実施基準に抵触することを知りながら稟議を承認したのか』など、いくつも不透明な部分が残り、国民には何の説明もない状態です。

 また、元総務相である武田良太氏をはじめ自民党の総務族たちは、前田氏の処分の軽さに不満を持っているようです。『過去に職員による不祥事の管理責任を問われて退任した海老沢勝二元会長や、橋本元一元会長が退職金を100%カットされたのに、今回、前田氏は自分が直接関与した不祥事にもかかわらず、わずか退職金10%カットに留まるのは、あまりに甘い処分だ』と。

 ただ、一方の前田氏も黙っていません。『特命監査による調査結果は稲葉会長に改竄されたものだ』などと主張しており、退職金カットの処分に対して、経営委員会に不服を申し立てているそうです。まさに事態は泥沼化しています」(同前)

稲葉延雄会長(左)、前田晃伸前会長 ©共同通信社

 そんな中、本誌取材班はある極秘資料を入手した。

「臨時役員会 文字起こし」

 こう書かれた、A4判で9枚の資料だ。一番上には「厳秘」と注意書きされている。日付は「2023年4月19日(水)」。議題は「BS同時配信に関する稟議に関して」とある。本稿の冒頭で触れた臨時役員会のことだ。この資料には、理事たちがBS番組のネット配信問題をめぐって水面下で何を議論していたのか、克明に記録されている。