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 ちなみに前田前会長は今年1月に任期を終え、稲葉に交代する形で、すでに会長を退任しているため、この臨時役員会には出席していない。会議が行われた4月はNHK執行部が入れ替わる移行期にあたり、出席者の顔ぶれは旧体制の理事と新体制の理事が混ざった状態になっていた。新たにトップとなった稲葉と井上が前田体制の理事たちを相手取り、追及していくのがこの会議の構図だ。資料を読む限りでは、その他に4月に退任した古参の板野裕爾や、稲葉体制でも理事を続投している中嶋太一も出席していたことが分かる。

 まず6人のうちの一人である児玉が弁明を始めた。一貫して技術畑を歩いてきた、当時の技術局担当の理事だ。

(児玉)当時、技術局長という立場で、たしか12月だったと思いますけども、この稟議書を起案しています。ことの経緯をこまかく把握していませんが、(ママ)月に、検討プロジェクトが立ち上がると経営企画の担当者から報告を受けた。プロジェクトには経営企画局、メディア総局とあわせて技術局も入るというような報告だったと記憶しております。(中略)経営企画局の担当だったと思いますが、この件については、会長の了承をもらっているという話がありましたので、私としてはその稟議書にサインをしたと。日付など細かいところはまったくあれですけど。

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 稟議書で承認された9億円分の予算は「配信設備購入」を名目としたもので、技術担当の理事である児玉は、実質この問題の直接の担当者になる。だが、肝心の証言は記憶が不明瞭でおぼつかない。

板野裕爾氏 NHKホームページより

NHK広報は「再発防止の徹底を図ってまいります」

 NHK広報局に今回の臨時役員会について問うと、「役員による情報共有や意見交換などは必要に応じて、随時、行っています」と開催を認めた。また、調達した業者への支払いの有無についても改めて質問したが、「今回の事案では、予算・事業計画に基づかない衛星波の同時・見逃し配信に関わる支払いは一切行っていません。放送法に基づき、2022年度決算については、監査法人による会計監査及び会計検査院による検査を受け、問題は何ら指摘されていません。今年度、当初の設備整備の内容を改め契約と仕様の変更を行い、予算・事業計画の範囲内で整備を進めています。支払いは、契約の変更後に整備の進捗に合わせて行い、最初の支払いは今年の8月です」とあくまでも違法性のある支払いについては否定した。

 そして最後にNHK広報局は今回の不祥事についての見解をこう答えている。

「受信料で事業運営を行うNHKの業務執行やガバナンスに対する視聴者・国民の皆さまの信頼を損なう事態となり、改めてお詫び申し上げます。今回の事態を受けて取りまとめた再発防止策に基づき、経営の意思決定におけるチェック体制の整備・強化や人材教育の強化、それに経営委員会・監査委員会に対する情報提供の拡充などを着実に進めており、今回のような事案を二度と繰り返さないよう、再発防止の徹底を図ってまいります」

(文中敬称略)

本記事の全文(前篇後篇)は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。