今年の春ごろから取り沙汰されているNHKの「BS番組ネット配信問題」。放送法違反の恐れがある計画にもかかわらず、9億円もの予算をつけ、国会でも承認された。月刊文藝春秋編集部は、今年4月19日に秘密裏に開かれた「臨時役員会」の議事録を入手。全9ページの文書にはこの問題をめぐって新任の井上樹彦副会長らが他の理事たちを追及していく模様が克明に記録されていた。

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 渋谷の中心部に聳え立つNHK放送センター。このビルの21階には、NHK幹部たちが集まる「役員会議室」がある。通常の理事会は毎週火曜日に行われるが、会長が議案を理事たちに諮り、「異議はないか」と採決を行うだけで、至って形式的に進められるという。 

 だが、この日は違った――。今年4月19日、秘密裏に「臨時役員会」が開かれたのだ。極めて異例のことで、ここ数年を遡ってみても、臨時役員会が開かれたことはない。この日も幹部たちの大半は事情が分からぬまま、急遽、会議に招集されたという。

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 本来は会議室の窓から賑やかな渋谷の街を見渡せるはずが、この日はカーテンが閉め切られ、室内は暗く、重苦しい雰囲気に包まれていた。

「本議案をそのまま放置すれば、違法性の疑いはまぬがれない」

 会議の席上で、幹部の一人が口火を切ると、たちまちその場にいた他の幹部たちに動揺が走った。そしてこの発言を機に、会議は紛糾し、異様な混乱を見せることになる。

NHK放送センター ©共同通信社

「受信料の目的外使用」に批判の嵐

 この半年間、NHKはBS番組のインターネット配信をめぐる問題で蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 昨年秋頃、一部の職員の間で、ネット上の動画配信サービス「NHKプラス」で地上波放送の番組だけでなく、加えて衛星放送(BS番組)も配信できるように整備する計画が浮上。すぐさま2023年度の予算案に整備費用として9億円もの金額が盛り込まれた。この予算案は、NHKの最高意思決定機関である「経営委員会」の審議を難なく通過し、さらには国会でも承認されている。

 だが、後にこの計画は「放送法違反」に該当することが発覚したのだった。

 NHKの事業は国民からの受信料が元手であるため、総務省が所管する「放送法」や「実施基準」で、事業を行える範囲が厳密に決められている。BS番組のネット配信は「インターネット活用業務実施基準」に照らすと、あくまでも放送を補完する任意業務に過ぎず、現状では未認可の事業に当たる。また、放送法が禁じる「受信料の目的外使用」にも該当するものだった。

 いわば違法になり得る事業の予算案に対して、NHK内では誰も疑義を呈することなく、国会の承認まで得ていたことになる。あまりにも杜撰な手続きだ。

 今年5月30日になって「朝日新聞」が、朝刊一面で「NHK、未認可配信に9億円予算計上 放送法抵触の可能性」と報道。ようやく問題が明るみに出て、NHKに対して批判の嵐が吹き荒れた。