1ページ目から読む
2/4ページ目

北朝鮮当局の全力アピール

 ジュエ氏の場合、まだ幼いため、国政についての学習や指導者としての所作を学ぶ帝王学、高位幹部との人脈作りはこれからだとみられる。現在は、公式の場ではその存在感を国民に示し、国民の目に触れない場所では、将来の後継に向けた実績作りをしているという。

 元幹部は「おそらく、白頭山密営など、過去の指導者とゆかりのある場所を訪問しているはずだ。後継者となった後、『実はこんな準備もしていた』と実績をアピールするためだ」と語る。

金正恩氏とジュエ氏(朝鮮中央通信のHPより)

 確かに、ジュエ氏の行動の第2の特徴は、現地指導という体裁を取っていない点にある。ジュエ氏は11月30日の航空節の際、正恩氏の空軍司令部訪問には同行せず、食事会や航空機のデモフライトにだけ参加した。過去に登場した際も、ジュエ氏のための説明役が同行していたことはない。北朝鮮当局は現在、ひたすら、ジュエ氏の存在を人々に認知させることに全力を挙げていると言える。

ADVERTISEMENT

“後継者”特有の兆候

 北朝鮮は、ジュエ氏を後継者だと公式に認めたことはない。ただ、第3の特徴として、後継者特有の兆候が報道に表れている。ジュエ氏の場合、名前こそ報道されていないが、「愛されるお子さま」「尊敬されるお子さま」などの修飾語がついている。本名を明かさないのは、神秘性を高め、権威付けを図っているからだろう。

 金正日総書記の場合、当初は公式報道で「党中央」と呼ばれた。金正恩氏は、北朝鮮国民向けの講演会などで「青年大将」などと呼ばれた。同様に、「親愛なる」「偉大な」など、修飾語がつくのは過去、最高指導者とその後継者しかいない。

 ジュエ氏を巡る報道写真も、しばしば最高指導者の金正恩氏を横に押しのけて、中央に陣取るカットが使われる。これも、後継者としての位置を表している。

 では、なぜ、ジュエ氏が後継者として選ばれたのだろうか。北朝鮮では最高指導者と側近たちは運命共同体の関係にある。最高指導者は統治するために側近が必要だ。側近も自分たちの権力を維持するために最高指導者が必要だ。側近たちは選挙も公務員試験も経ていない。唯一の根拠は「祖国を解放した金日成主席の血筋を助けてきた」という論理だ。だから、金日成氏の血筋であることが、最高指導者の条件になる。

金正恩の2人の子ども

 金正恩氏と妻、李雪主氏の間には、2人の子どもがいる。長女はジュエ氏。17年から18年にかけて生まれた子がもう一人いる。おそらく、この子も女児だろう。男児なら、金正恩氏がもう少し待って、後継者としてお披露目したはずだ。男尊女卑の思想が残る北朝鮮では、男児の方が周囲を納得させるうえで楽だからだ。