ジュエ氏はまだ10歳。人生はこれからだが、順調に最高指導者への階段を登れるだろうか。まず、叔母、金与正党副部長との関係がある。ロイヤル・ファミリーで現在、公職に就いているのは正恩氏と与正氏の2人だけだ。与正氏にも大勢の部下がいる。部下のなかには、自分の栄達のため、与正氏が最高指導者になってほしいと望む者もいるだろう。
妹・与正氏のわきまえ
ただ、与正氏は自分の立場をわきまえているようだ。朝鮮中央通信は何度となく、同じ構図のなかで、ジュエ氏を大きく、与正氏を小さく捉えた写真を公開してきた。ジュエ氏が幹で、与正氏が枝であることを明確にさせる狙いがあるのだろう。与正氏も立ち位置をわきまえることが、自分の権力を維持することにつながると考えている。下手に権力に野心を見せれば、粛清されてしまう。
幸い、正恩氏と与正氏の兄妹関係は良好だ。9月のロシア訪問でも、与正氏が正恩氏のそばで世話をする様子が確認されている。与正氏はあくまで、正恩氏の健康状態に異変が起きた際、ジュエ氏につなぐまでの「スペア」としての役割が期待されている。北朝鮮が21年1月の党大会で新たに設けた党第1書記という職責は、非常時に最高指導者の仕事を代行する際、与正氏が使うためのポストだろう。
将来の懸念材料は…
ジュエ氏の将来で懸念材料と言えば、母親の李雪主氏が金正恩氏の愛情をずっとつなぎ留めていられるかどうかだろう。
過去、金正男氏は後継者の地位を不動にしたように見えた時期もあったが、母親の成蕙琳氏が、金正日総書記の愛情を失ってから、その地位を追われた。金正恩氏は父親の放埒な行いに嫌悪感を抱いているとされる。母、高英姫氏もその被害者の1人だからだ。
2018年4月に板門店で行われた南北首脳会談の際、正恩氏が李雪主氏の方ばかりに視線を飛ばす様子も確認されている。李雪主氏が正恩氏の愛情を失うことは、現時点では考えにくい。
もちろん、それもこれも北朝鮮の独裁体制が残っていれば、という話だ。昨年亡くなった英国のエリザベス2世が若い頃、軍務に就いたような苦労を、ジュエ氏は経験していない。独裁体制が崩れれば、ジュエ氏はたちまち、市民の憎悪の対象に転落するだろう。