中韓で圧倒的人気。米TIME誌のオールタイム・ミステリーにも選出
阿川さんの言葉は、こう続く。
「しかも、日本国内だけでなく、海外での売れ行きも尋常でないことになっていて、アジアのみならずヨーロッパでも翻訳され、その数が優に7000万部に届く、というのです。選考委員の1人である池上彰さんも『韓国の書店に行ったら、ベストセラーの棚に東野さんの作品が並んでいた』とおっしゃっていました。私もふくめ、選考委員からは驚愕と憧憬と嫉妬の声が上がり(笑)、満場一致での受賞となりました」
阿川さんの指摘の通り、海外での東野人気は年々広がりを見せていて、現在では世界37の国と地域で出版中。特に東アジア地域での人気は圧倒的だ。
たとえば、池上さんの目撃談もあった韓国。2009年から19年の10年間で、韓国の出版市場の20~25%を占める教保文庫での小説作品販売数を集計したところ、韓国の人気作家や村上春樹さん(2位)を抑えて東野さんが1位となった。
また、中国では『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が1000万部を突破し、同作は中国語版映画も大ヒットしたりと、その人気はもはや不動。欧米圏でも、日本人で初めて米国エドガー賞、英国ダガー賞の両賞にノミネートされた作家として評価は年々高まっている。今年は創刊100年を迎えたアメリカのタイム誌が「THE 100 BEST MYSTERY AND THRILLER BOOKS OF ALL TIME」を発表し、1800年代以降、世界中で出版されたミステリーやスリラー作品の中からオールタイムベスト100を選定したが、その100冊の中にも『容疑者Xの献身』が堂々と選出されているのだ。
北方謙三さん「石ころでも、磨けば光るんじゃないか」
さて、授賞式。東野さんは、受賞の言葉をこう切り出した。
「何を話そうかと思ったんですが、たいしたことは話せないので、2人の先輩作家の言葉について、お話をします。
1人目は、北方謙三さんです。1997年に日本推理作家協会50周年を記念して文士劇というものを行ったんですが、そのときの理事長が北方さんで、北方さんは、TVのインタビューでこんなことを話していました。
『自分のことを、若い時はダイヤモンドの原石だと思っていた。
いつかは光り輝くダイヤになるんだ、とばかり思っていた。
ところがいつまで経ってもそうならない。
やがて、気がついた。自分がただの石ころだ、ってことに。
がっかりした。でも、思い直した。
石ころでも、磨けば光るんじゃないか、と。
そうやって磨き続けて、今があります』
その言葉を聞いて、非常に感激しました。とてもいい話です。
思いついたのが自分でないのが、悔しいです」