福山雅治さんが披露した、赤い腕時計の話
一方で、菊池寛賞授賞式の小冊子には、東野さんの受賞を喜ぶ、ある著名人からのメッセージが掲載されていた。『ガリレオ』シリーズのドラマで主人公・湯川学を演じているシンガーソングライター・俳優の福山雅治さんだ。「たくさんある東野先生の好きなところからひとつ」として、『ガリレオ』の映像化記念に作った、ベルトも文字盤も赤色の腕時計の話を披露している。東野さんは、福山さんと会う時には必ず、その時計を付けてくる、というのだが......。
〈ある時、腕時計を付けてこなかった日があった。「いよいよ替えたのかな」と思っていたら、「修理に出している」と。15年もの間に何度もベルトを替え、修理に出して、ずっと着用していらっしゃる。さりげなく長く愛している。先生の作品には、そういう人が数多く出てくる。ひそやかに、自身の大切なものをずっと守り続けている人が。つまり、先生ご自身のお人柄が作品の根幹に流れているように感じます。愛ゆえの正しさと間違い。強さと弱さ、喜びと苦しみ。だからこそ読者に愛されるのでは〉
変わることを恐れない、前に一歩踏み出す勇気だけでなく、大切なものを変わらずにずっと守り続けることの尊さもまた、東野作品の根底に流れているのではないか、と福山さんは指摘する。
さて、『ガリレオ』といえば、単行本10作で2300万部を超える大人気シリーズだが、いまもシリーズは継続中。小説誌『オール讀物』2023年12月号には『ガリレオ』シリーズの書き下ろし最新短編「重命(かさな)る」が掲載されている。隅田川で発見された水死体をめぐって、湯川博士の推理が冴えわたる快作だ。最新作を読むもよし、これまでの名作を読むもよし、この「東野イヤー」ともいえる2023年の年末年始は、日本が世界に誇るベストセラー作家の作品に触れてみてはいかがだろうか。
昨日とは違う自分に、出会えるかもしれない。
あるいは自分の中にある、ずっと守りたい、大切な思いに、改めて気づけるかもしれない。