近所に住むフェイスブック(現メタ)COO(最高執行責任者)のシェリル・サンドバーグや、セールスフォース・ドットコム創業者のマーク・ベニオフが子供連れで遊びに来ており、三木谷が焼いたバーベキューのステーキや日本から連れてきた職人が握る寿司を堪能していた。
黙々と寿司を食べる男
芝生が美しく刈り込まれた庭では三木谷を中心に大きな輪ができ、笑い声が絶えない。ふとプールサイドに目をやると、その輪から数メートル離れたところにポツンと立ち、黙々と寿司を食べる男がいた。一緒にいるのは秘書らしきブロンドの女性だけだ。マスクである。
「どうかしたのか」と気を回した三木谷が、楽天の役員の中で一番英語が上手い百野研太郎をマスクのところに行かせた。ほどなく戻ってきた百野はこう言った。
「秘書曰く、イーロンは十分にパーティーを楽しんでいる、ということです」
自分が執着するテクノロジーやビジネスに対しては驚異的な集中力を発揮するが、その場の雰囲気に合わせてそれらしく振る舞ったり、相手に話を合わせたりするのは極端に苦手なのだ。
30歳の時の決意
マスクが人類をマルチ・プラネット・スピーシーズにする、と決意したのは30歳の時だ。インターネットの黎明期に起業家としてのキャリアをスタートさせたマスクはデジタルの職業別電話帳やネット銀行のベンチャーを立ち上げ、それらの会社を売却してビリオネアになった。
次は何をするか。もともと宇宙やロケットに関心があったマスクは「火星探査」と検索して驚愕する。火星探査もまもなく実現するのだろうと思い込んでいたが、人類の宇宙開発は月で止まっていた。
「ならば自分が」と思ってしまうところがすごいところだが、挑戦する前に「できっこない」とあきらめる思考回路は頭脳に組み込まれていない。
とはいえ、いきなり自分でロケットが作れると思うほど傲慢でもない。最初はロシア製の古いロケットを買おうとした。そこでロシアの政府関係者に小馬鹿にされ、「だったら自分で作ってやろうじゃないか」と闘争心に火がついた。2002年にロケット打ち上げの会社を立ち上げる。現在のスペースXである。