2024年11月に行われるアメリカの大統領選挙が、本格的に動き始めている。各紙の世論調査によると、共和党支持者の5割から6割近くがドナルド・トランプ前大統領を支持し、2位のフロリダ州知事のロン・デサンティスが1割台の支持にとどまる。だが、共和党がトランプを候補に選ぶのなら、アメリカ史上初めての異常事態を迎えることになる。
4つの裁判で被告となっている
トランプは現在、4件の疑惑や事件で捜査の対象となっている。1つは、不倫関係にあった元ポルノ女優への口止め料を会社の経費として支払った疑い。2つ目は、大統領任期後にホワイトハウスを去る際、機密文書を持ち帰った疑い。3つ目は、20年の大統領選の結果を認めず、集計や確定の手続きを妨害した疑い。4つ目は、トランプが負けたジョージア州での選挙結果に介入しようとした疑い。
4つの裁判で被告となっている人物が、裁判と並行してアメリカの大統領候補になったことは今まで1度もない。
選挙の結果を、自分が負けたという理由で覆そうとした
その中でも最も悪質なのが、大統領選挙の結果を認めず、集計や確定の手続きを妨害した疑いだ。民主主義の根幹をなす選挙の結果を、自分が負けたという理由で覆そうとしたのだ。このやり方が通るのなら、民主主義は瓦解する。
トランプは20年11月の大統領選挙で、ジョー・バイデンに負けると、「不正選挙だ」、「選挙は盗まれた」と言い続けた。そのハイライトは、翌年1月、連邦議会が選挙結果を確定する日、ホワイトハウス周辺に集まった数万人の狂信的信者に向かってこう言った時だった。
「選挙が盗まれたのだから、俺達は決してあきらめてはいけないし、敗北を宣言することもない」
「死ぬ気で戦え。さもないと、この国を失ってしまうことになるぞ」
当時アメリカで取材していた私は、この演説をホワイトハウス前で聞いていた。率直な感想は、「まだ言ってるよ」である。大規模な不正は一切なかったことは、はっきりしていたのに、選挙結果を変えようだなんて無理筋にすぎる。