1955年夏、ミシシッピ州。シカゴから親戚を訪ねてきていた14歳のエメット・ティルは、白人女性に向けて口笛を吹いたせいで白人男性らに拉致され、リンチを受けて殺された。息子の変わり果てた姿を、母メイミー・ティルはあえて世間にさらし、人種差別に対して静かに、しかし強烈に、抗議をする。その重要な話を映画化した『ティル』で、メイミーの母(エメットの祖母)役とプロデューサーを兼任するのが、ウーピー・ゴールドバーグだ。
「この映画を実現させるには、とても長い時間がかかった。話が暗すぎるとか、黒人の映画は海外で受けないとか、いろいろ言われたわ。そんな時、(『007』のプロデューサー)バーバラ・ブロッコリが、これは作るべき映画だと言って、映画スタジオのMGMを説き伏せてくれたの。ちょうどその頃、もっと黒人の話を映画で語るべきだという風潮になったのも関係しているとは思うけれど、MGMはお金だけでなく、たっぷりの自由もくれて、私たちが作りたい映画を作らせてくれたのよ」
もうひとりのプロデューサーで共同脚本家でもあるキース・ボーチャンプは、この事件とメイミーについて誰よりもよく知る人物だ。彼がかかわることにより、この映画は真実を語るものになった。
「キースは過去にこの事件についてのドキュメンタリーを作った。それがきっかけでFBIはこの事件を再捜査したのよ。メイミーと長い時間を過ごした彼は、他の誰も知らないことを知っている。彼が書いた脚本なしに、この映画は存在しなかったわ」
そんな情熱的なプロデューサーのお眼鏡にかない、主演の座を獲得したのは、ダニエル・デッドワイラー。決して知名度が高くなかった彼女は、今作で数多くの賞にノミネートされる。オーディションで役を勝ち取ったデッドワイラーは、現場でもゴールドバーグを感動させ続けている。
「この映画は全部ダニエルにかかっていた。この家族に息吹を与えるのは彼女で、それを見事にやってくれたわ。それに、現場でずっとキャラクターに浸る役者は多いけれど、彼女はそれをしない。冗談を言ったりもする。カメラが回っていない時に自分自身に戻ることを恐れないの」
今よりずっと人種差別の強い50年代にタイムスリップするからこそ、現場ではユーモアが必要だった。「でなければ息がつまる。私は率先してふざけていた」というゴールドバーグは、白人俳優たちも辛かったと付け加えることを忘れない。彼らの心のケアもまた大事だったのだ。多くの苦労をもって作られたこの映画が世の中を変える小さなきっかけになることを、ゴールドバーグは願っている。
「ここに出てくるような、権力のある男たちのネットワークは、今現在も存在する。それが彼らを守っている。誰に対しても、正義がきちんと追求されるようにすること。まずはそこから始めたい。この映画がそのきっかけになれたなら、そんなに嬉しいことはないわ」
Whoopi Goldberg/1955年ニューヨーク州生まれ。コメディアン、女優、TVパーソナリティ。エミー、グラミー、オスカー、トニーをすべて受賞した数少ない人物のひとり。代表作に『カラーパープル』『ゴースト/ニューヨークの幻』『天使にラブ・ソングを…』シリーズなど。
INFORMATION
映画『ティル』(12月15日公開)
https://www.universalpictures.jp/micro/till