昨年8月、43歳の若さで死去。我々にとっては突然だったが、チャドウィック・ボーズマンは2016年にステージ3の大腸がんと診断されていた。その後の作品には、治療を受けていることを隠しつつ出演していたのだ。
4月9日に日本公開された『21ブリッジ』もそのひとつ。銃撃戦もたっぷりの犯罪スリラーで、闘病中だったとは信じられないアクションを見せている。北米公開時に取材に応じてくれた彼も、明るく、元気いっぱいだった。本作で演じるのは、ニューヨークの刑事アンドレ・デイビス。役を受ける上では、迷いもあったと明かす。
「刑事を演じてみたいと思ったことはないんだ。警察には、必ずしも良い印象を持っていないのでね。でも、やるならば、本物の刑事をしっかりリサーチした上でやろうと決めた。この手の映画でそんなに構えなくてもと思うかもしれないが、彼らを理解することはとても重要だった」
アメリカで育った黒人男性のボーズマンが警察に良い印象を持っていないのは、当然だろう。昨年の「ブラック・ライブズ・マター」運動に象徴されるように、アメリカでは、罪のない黒人が警察官に殺される悲劇が昔から何度となく起きている。
「運転中、何の理由もなくパトカーに止められるという経験を、僕自身もしている。2週間前にもあったばかり。その時は『見たことがある顔だな』と言われたよ。大学時代、黒人仲間が警察官に殺されて、抗議運動に参加したこともある。警察をやみくもに嫌っているわけではないし、彼らは自分の仕事をやっているだけだというのもわからないわけではない。でも、歴史や自分の経験のせいで、僕の警察への感情は複雑なんだ」
ボーズマン演じるデイビスは子供の頃、刑事だった父の殉職という辛い体験をしている。そんな過去の影響で警察官が殺される事件に我慢ならない彼は、マンハッタン島を取り囲む21の橋を封鎖し、午前5時までに警官殺しの犯人を逮捕するという捜査に参加した。両親を強く尊敬するボーズマンにとって、そこは容易に共感できる部分だ。
「祖父が土地を手放した時、父はそれをもらい受けることができたのに、子供のため、もっと良い学校がある街に住むことを選んだ。看護師だった母も、医者になれるくらい頭が良かったのに、医者になるための勉強より、僕らを育てることを優先した。両親は僕らのために自分を犠牲にしてくれたんだ。僕にとって一番のヒーローは両親だよ」
彼にとってのもうひとりのヒーローは、モハメド・アリ。自分が本当に愛することをやり、常に全力を尽くす姿を見て、自分もああなりたいと思ったのだという。そして彼は演技に情熱を注ぎ、最後の出演作となった『マ・レイニーのブラックボトム』で今年のアカデミー賞に候補入りを果たしてみせた。ボーズマンもまた、これからずっと、数多くの若い人たちに影響を与え続けるのだ。改めてご冥福をお祈りします。
Chadwick Boseman/1976年生まれ。『42~世界を変えた男~』で初の主演を獲得。その他の出演作に『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』『ブラックパンサー』など。
INFORMATION
映画『21ブリッジ』
http://www.21bridges.jp/