『約束の宇宙(そら)』(4月16日公開)は、フランス人宇宙飛行士でシングルマザーのサラと7歳の娘・ステラの、ロケット発射までの日々を描いた映画だ。サラは「プロキシマ」と名付けられた、国際宇宙ステーションに約1年間滞在するミッションのクルーに選ばれる。彼女にとっては念願の宇宙行き。だがそれは、幼い娘との長い別れの時間でもあった――。

「プロの宇宙飛行士であるとともに、母親でもあろうと必死になるサラと純真無垢なステラの姿が胸を打ちます」

 こう語るのは、本作のスペシャルアンバサダーを務める山崎直子さん。宇宙飛行士として2010年にスペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗、国際宇宙ステーションで約15日間の任務を果たした山崎さんも、当時7歳の娘をもつ母親だった。

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山崎直子さん

「サラはロシアでの長期訓練のためにステラを元夫に預けます。その間ふたりは電話で繋がりますが、声を聞けばいつまでも切り難くなる。『いっせーのせで一緒に切ろう』というシーンがあるのですが、私と娘も、当時まったく同じようにしていました」

 欧州宇宙機関(ESA)全面協力のもとで製作された本作は、モスクワのスターシティ、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地等で撮影され、施設も機器もすべて本物。訓練、感染症予防のための隔離期間、周囲のスタッフの様子など宇宙飛行士の姿がリアルに映し出され、さながらドキュメンタリー番組のようだ。また過酷なトレーニングの場面は、その世界が男性主導の社会である事実も炙り出す。山崎さんはそんな状況をどう感じていたのだろうか。

「確かに大変な部分もありました。でも宇宙行きを希望しているのは紛れもなく自分自身。ですから訓練そのものは辛くはなく、むしろ楽しいときの方が多いんです。キツいのは、サラもそうであったように宇宙飛行士としても親としてもうまくまわらないとき。『ママと一緒にいたい』と言って泣く娘の要望を叶えてあげられず、かつ訓練でも思うような成果を上げられなかったときなどでした」

 自らの望みとはいえ、宇宙でのミッションは死の危険を伴う。それでも果敢に挑む意欲はどこからくるのか。

「長年非常時対応の訓練を続けていると恐怖は克服され、それよりも早く宇宙に行きたいという気持ちが勝ってくるんです。宇宙で死ねるなら本望とすら思えてくる。完全な職業病ですね(笑)。一方で家族を悲しませたくないという気持ちもあります。そのために宇宙飛行士はミッション前に家族宛の手紙を2種類書きます。一通は打ち上げが成功した場合用、もう一通は失敗した場合に備える遺書です」

 遺書には所有する財産、加入している保険、悲嘆に暮れる家族のケアをお願いする宇宙飛行士の名前なども連ねるのだそう。主人公のサラも覚悟を決めて宇宙へと飛び立つ。

「葛藤し共に成長していくふたりの姿に、きっと多くの方が共感するはず。心を照らす星は案外身近にあることにも気づかせてくれる映画です」

やまざきなおこ/1970年、千葉県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。2001年、JAXAで宇宙飛行士に認定。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号で宇宙へ。ISS組立補給ミッションSTS-131に従事。

INFORMATION

映画『約束の宇宙(そら)』
http://yakusokunosora.com/