コロナ対策を兼ねて、当時1号館にあった270席のうち54席を撤去して、二人一組で座れるソファ6席を設置しました、ポップコーンやお弁当を置ける机もあります。ペア優先で、追加料金は不要。夫婦やカップルでゆっくりと楽しめます。
1号館の座席数を減らしたのは、ソーシャルディスタンスの試みでもありました。コロナ禍で苦しいとき、何かをやらなければならないとチャレンジしたのです。シネマパスポートとともに話題になって、お客さまにもよろこんでもらいました。
火災後、光石さんは「目の前が真っ暗になり、言葉も出ませんでした」とエッセイに書いてくれました。わたしは「とにかく前を見る」と誓っていたそうですが…。
仲代達矢「樋口さんのいるところが昭和館だから」
火事になった直後、俳優の仲代達矢さんが、こんな言葉をくださっています。
「昭和館は不滅です。劇場がなくなっても、樋口さんのいるところが昭和館だから」
わたしがいるところが昭和館…というのは、どういうことなのだろう。ずっと考えていました。答えは見つかりません。
仲代さんは毎年のように、お芝居で小倉に訪れて、昭和館にも足を運んでくださっています。80周年のとき、こんな言葉をいただきました。
「普通の映画館には無い何かが、やはり、ここにはあるからです。それは、損得だけに集約されない経営者の心の有り様とでも言うんでしょうか。日本映画の古き良き伝統を今に伝え、良質の映画にこだわり続けるその崇高な姿勢が、幅広い共感を呼んでいるからに他なりません」
ありがたい言葉ですが、滅相そうもないという思いもあります。恐縮するばかりでした。「崇高な姿勢」といわれても、わたしはそんなに素晴らしい人間ではないのです。祖父と父から受け継いだ映画館を、どうにかして延命させたい。その一念も、くじけそうになっていました。
それでも、あれほどの名優が「昭和館は不滅」とおっしゃるのですから…。
仲代さんの言葉こそ、わたしの心の奥にあるものを、突き動かしたのかもしれません。