今作『きっと、それは愛じゃない』の主人公ゾーイは、受賞歴もある硬派なドキュメンタリー監督。
次回作に向けての会議で題材が「重い」「暗い」と断られ、勢いでイスラム教徒である幼馴染みのお見合い結婚の密着ドキュメントを提案する。多文化が共存するイギリスだけに、他のカップルの背景も交えて女性監督が描くのはウケがいいはずとプロデューサーたちから快諾される。
イケメン医師である幼馴染みのお見合いに密着
その幼馴染みのカズは、パキスタンをルーツに持つイギリス生まれの腫瘍科医。面白くて優しい性格のイケメンで、趣味はスポーツの高スペック男子である。そんな彼が突然親の選んだ相手とお見合いすると言い出したのでゾーイは面食らっていた。
彼女自身は“運命の人”を探す旅を迷走し、選んでしまうのはハズレ男子ばかり。身軽に生きたい自分を大事にしてくれる相手と巡り合うのは奇跡に近い。そんな大事な選択をお見合いに託すなんて信じがたいのだ。
愛が先か、結婚が先か
作中ではイスラム教の結婚のプロセスも丁寧に描かれている。私自身、去年までコーランが街に響くマレーシアに住んでいたのだが、イスラム教は宗派も多く慣習も複雑、いかに規範に忠実なのかも人による。
カズの両親は、「我が家は近代的」と言いながら色々と結婚相談員に注文を出す。結婚は釣り合いが大事、祖父母も両親もそうやって家族を繋いできたと。カズも期待に応えるいい息子であろうと嫁探しを親に任せることにした。カズの結婚への過程を追いかけながら、ファインダーをのぞくゾーイは気持ちがざわつく。
折に触れ「愛がなくても結婚できるの?」とカズに問いかけるが、「一緒にいれば好きになる。親の強制じゃない」「愛が何であれ神が導く」などとかわされてしまう。ゾーイにとってそれは答えにならない。愛する相手に巡り合うのはそんなに簡単じゃないことはゾーイが身に染みていることなのだ。
愛ってコトコト温めて育てられるものだろうか。