この20年近くにわたって、日本を縛り続けてきた言葉に「ガラパゴス」というものがある。携帯電話の標準化で、日本が「独自進化」を遂げたことを、東太平洋の島々の生態系になぞらえたことが発祥だが、それが転じて、あらゆる分野で「世界の潮流から取り残される日本」を揶揄する言葉として浸透した。
だが、この数年、米国を拠点に取材を続けるなかで痛感しているのは、もうこの言葉をネガティブな文脈で使う必要はないのではないか、ということだ。もちろん、日本独自の信じられないような規制など問題は山積しているのだけれど、少なくともカルチャーの領域では、実際のガラパゴス諸島が世界で類をみない固有種を育んだように、日本で独自進化を遂げたモノやコトにこそ栄華のチャンスがある、という確信を日々強めている。
世界でもヒットを生み出す方程式
端的にいえば、小手先で海外の需要に合わせに行くより、日本国内で徹底的に研ぎ澄まされ、消費者たちの心を掴んだもののほうが、世界でもヒットを生み出すということだ。
ちょうど、この現象を象徴的に表す事例を映画『君の名は。』や『すずめの戸締まり』の大ヒットで知られる新海誠監督がメディアで述懐していた。
かつて海外公開にあたり、国籍を問わずに楽しんでもらおうとファンタジー冒険物語を作ったところ、「あなたに期待しているのはそうじゃない」などの指摘を受けた一方で、逆に日本人にしかわからない文脈の作品のほうが反響が良かったことから自分の道筋が見えたという。
「いまもグローバルを意識するよりも『足元をしっかり描きたい』と思っています。『海外で日本の作品の魅力が伝わるか』というテーマで考えると、そもそも観客ごとに知識や経験、価値観などは違うので」(JFF Plusより)
その言葉通り、まさに日本人に刻まれた記憶ともいえる東日本大震災を扱った最新作『すずめ~』は、世界で3.2億ドル(約470億円)の興行収入を叩き出した。これは日本の手描きアニメとして史上4位の大ヒットだ。