――たしかにこの映画には、二人の男たちが互いを労ったり一緒に料理をしたりという、従来の西部劇のイメージとは異なる場面がたくさん登場しますね。なかでも私が惹かれたのは、クッキーがキング・ルーの家に招かれて、彼の家を自然に掃除しはじめる場面です。あの場面で、二人はまるで長年暮らしているカップルのようにも見えましたが、監督は、あの二人の関係を友情と考えていらっしゃいますか? もう少しロマンティックな関係性も含まれているのでしょうか?
ケリー・ライカート 二人の関係の描写は非常に曖昧です。元々彼らがつるむようになったのはお互いに利益や打算があったから。キング・ルーは中国からアメリカへやってきた移民で、自分なりの夢を持っているけれど一人では実現が難しい。クッキーと一緒にいればその夢をつかめるかもしれないという打算があったわけです。でも一緒に過ごしていくなかで二人の関係性はどんどん深まっていきます。そもそもあの時代、西海岸沿岸のとても寒い冬に、男性二人が家の中でどんなふうに過ごしていたかなんて誰にもわかりませんよね? 彼らがどんな関係であるのかはどう想像してもいいはずです。
暗にラブストーリーを示している可能性はあるかもしれません
――あの二人の関係を想像したくなったのは、冒頭に出てくる二体の寄り添った骨を見たことも大きいと思います。あの骨を見て、ロベルト・ロッセリーニの映画『イタリア旅行』(53)を思い出しましたが、何か意識はされていましたか?
ケリー・ライカート 『イタリア旅行』のことは特に意識していませんでした。とはいえ、二体の寄り添った骨が暗にラブストーリーを示している可能性はあるかもしれませんね。私がインスピレーションを受けたのは、1980~90年代にニューヨークを拠点に活躍したアーティスト、デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチの作品です。二体の骨が並んでいる様子を写した作品(注:おそらく「When I Put My Hands on Your Body」のこと)があり、そのイメージが自分の頭にあったのだと思います。
――主演の二人の演技で特に惹かれたのはその声と話し方です。クッキー(ジョン・マガロ)が牛に話しかけるときのとても優しく穏やかな声、キング・ルー(オリオン・リー)のちょっとユーモラスな話し方が大好きです。どのように声の演出をされたのでしょうか?