「今はとても穏やかで幸せな日々を過ごしていますが、もし自分が認知症になったらと心配でなりません。夜、眠れなくなることもあります」
認知症をきっかけに、幸せな生活を手放すことを恐れる84歳男性のお悩みを紹介。不安でいっぱいの相談者に、毒蝮三太夫さんが送ったアドバイスとは? 著書『70歳からの人生相談』(文春新書)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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【お悩み「『もし認知症になったら』という不安がどんどんふくらんでしまう」】
84歳の男性です。5歳年下の妻と二人暮らしです。子どもは娘が一人で、結婚して同じ市内に住んでいます。孫は大学生と高校生です。今はとても穏やかで幸せな日々を過ごしていますが、もし自分が認知症になったらと心配でなりません。夜、眠れなくなることもあります。
何もわからなくなって、妻に「どちらさまですか?」なんて言っている自分を想像するだけで、ぞっとします。徘徊したり暴力をふるったりして、妻や娘に迷惑をかけてしまうのも嫌です。「ボケ防止」になると言われている体操などは積極的にやるようにしていますが、ならない保証はありません。不安はどんどんふくらむばかりです。どうすればいいでしょうか。(84歳、男性)
気にするなと言っても心配はなくならない。ここは逆転の発想だ
84歳か。だいたい同年代だな。心配になるのは当然だ。俺だってそういう気持ちはあるよ。医者に言わせれば、認知症っていうのは誰がなるかわからない。どんな人にも可能性がある。しかも、まだはっきりした治療法がないわけだしな。
「気にしてもしょうがないよ。どんなに心配してもなるときはなるんだから」
肩を叩いてそう言ってやりたいところだけど、「気にするな」と言われて心配がなくなったら苦労しない。そういう性分なんだし、現実的に可能性はあるわけだから。
ここは逆転の発想だ。どんどん心配しよう。ボーッと過ごしているより、心配して頭を使うことで、認知症を防ぐ効果があるかもしれない。医学的な根拠はないけど、心配をエネルギーにして行動を起こすのは悪いことではないはずだ。
談志が「頭の体操だ」って言ってやってたのが、アメリカ映画でもフランス映画でも何でもいいんだけど、出演している役者の名前を覚えること。俺も一緒によくやってた。「ジョン」が付く役者の名前を思い出すなんてのもいい。ジョン・ウェイン、ジョン・フォード、ジョン・カビラもいるな。
「回想法」って言って、昔のことを思い出すのは認知症の予防や治療に効果があると言われている。ためしに、小学校や中学校の担任の先生の名前を思い出してみよう。思い出せなかったら、同級生に電話してみる。「俺たちが習った英語の先生の名前、なんだっけ?」ってね。アダ名でもいいや。