アパートで見つかった遺体
「おそらく冬の間に亡くなっていたようで、最近、臭いで発覚したんです」
そう説明され、案内された場所はアパート一階の一室。
亡くなった時期ははっきりしていませんが、訪れる人もなく発見が遅れ、死臭が漏れ出すと同時に遺体にたかる大量のハエが廊下などに飛び交い、発覚したそうです。
部屋の前に立つと、発見が遅れ死体が腐乱したために例によってひどい臭いがしました。
事故物件でのお祓いをするようになり、死臭には慣れていましたが、何度嗅いでも心地よい臭いではありません。
その場から一刻も早く立ち去りたかったのか、不動産屋さんは部屋の鍵をあけると早々に帰ってしまったので、オーナー夫妻の立ち会いのもとで部屋に入りました。
玄関をあけると、ムワッと臭いの爆弾が押し寄せました。
ワンルームの片隅にベッドがぽつんとあり、手前のフローリングの床には、人間の形をした体液の跡がべったりと残っていました。亡くなった方の最期の姿がありありと想像できるような、遺体が倒れていた黒いシミです。
その場所は、上部には紐を吊るせるようなものはなく、首吊りはできない位置でした。
服毒自殺ではないかということでした。
なぜ死を選んだのか、どのような方法で亡くなったのか、現場の状況から察せられることはありますが、興味本位で知ろうとはしないようにしています。
どのような状況かであるにかかわらず、わたしにできることは、ただ死を悼むのみ。
そして、亡くなった方だけでなく、残された方のためにお祓いという儀式が必要とされるから、現場に向かうのです。
いつものように部屋に小型祭壇を組み立て、儀式の準備をしました。
「畏み畏み申す……祓い給え、清め給え、祓い給え、清め給え……」
一連の儀式を滞りなくおえ、わたしが帰り支度をしようとすると、オーナー夫妻がためらいがちに口を開きました。
「すみません、実は、もう一件あるんです」